TOP MAGAZINE特集 多様化する時代の表現者たち 現代アートの新潮流

多様化する時代の表現者たち
現代アートの新潮流

世界の現代アート市場で今、日本の次世代アーティストたちが注目を集めている。伝統的な技法から最新のテクノロジーまで、さまざまな手法を駆使して、多様化する現代の〝今〞を切り取り、鋭いメッセージを投げかけるアーティストたち。現代アートの楽しみ方、そして注目の次世代アーティストについて、現代アート界の支援を続けている染谷尚人さんにお話を伺った。

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監修いただいたのは

本郷美術骨董館 代表 染谷尚人さん
本郷美術骨董館 代表 染谷尚人さん

27人の鑑定士が在籍する本郷美術骨董館の代表取締役・美術商。お店で鑑定をする傍ら、現代アートコレクターとして、次世代を担う日本人アーティストを紹介するBSフジの番組『ブレイク前夜』の制作・提供に携わる。テレビ・ラジオなどに出演して現代アート界を盛り上げている。

現代アートの「現代」とは、そもそもいつからを指すのか。まずはその定義から確認してみた。

「20世紀後半、1950年代以降の社会問題や情勢などを反映し、社会や美術史に対する批評性を含む作品を現代アートと呼びます。絵画や彫刻だけでなく、写真、映像、インスタレーション、パフォーマンスなど、さまざまな手法が用いられ、アーティストの個性や社会的メッセージが色濃く反映されています」と染谷さん。

「現代アートの父」と呼ばれるマルセル・デュシャンは、男性用小便器に署名しただけの作品『泉』を発表し、「芸術とは何か」という問いを投げかけた。その枠にとらわれない発想によって生み出された作品が、現代アートの起源だとも言われている。しかし、そんな自由さゆえに、「難解」「分かり難い」という感想を持つ人は少なくない。では、気軽に楽しむにはどうしたらいいのか。

「自らInstagramや、X、YouTubeなどで情報発信しているアーティストが増えていて、気軽にアーティストを見つけたり、つながったりできるようになりました。アートの楽しみ方も時代に合わせて〝多様化している〞のです。

例えば、『ArtSticker(アートスティッカー)』というWebサイトは、大手のギャラリーや特定のコレクターでなくても、誰もがアーティストとコミュニケーションを取ったり、支援したりできる、これまでにないプラットフォーム。立ち上げたのは起業家の遠山正道さんです。

確かに、現代アートの定義や概念は難しい言葉が並びますが、大事なのは『いいな』と思う心。作品だけでなく、アーティストや制作の背景を知るのも、現代アートの楽しみ方の一つです。私が携わるBSフジの『ブレイク前夜』は次世代アーティストだけを紹介する専門番組で、過去の放送500本以上をYouTubeにアーカイブしています。無料で見られるので、気軽にアーティスト探しをしてみていただきたいです」

現代アートのあれこれQ&A

Q.次世代アーティストの作品はどこで見られる?
注目すべきは、どんなアーティスト?

アーティスト自身のYouTubeやX、Instagram、サイトやアプリ、TV番組など、今や365日自宅で次世代アーティストの作品を鑑賞できる。現代アートに決まった見方はなく、楽しみ方は自由だ。大切なのは、自分にとってその作品が「好き」かどうか。作品点数が多い、コンセプトが明確、プレゼン力があるアーティストはブレイクする可能性も。

Artists recommended by Mr.Someya

  • 「A lot of shining memories」
    170×110×110 mm

  • 「クソがっ!」
    280×110×135 mm

三平硝子SHOKO MIHIRA

ガラスをバーナーの火の中に入れて、溶かしながら制作するバーナーワークと呼ばれる技術で制作。出会った人、身の周りで起こった出来事、世界的なニュースに対して湧き上がる喜怒哀楽の感情を表現する、モンスターのような立体作品。一つひとつの作品に込められたエピソードが、見る人にも同様の感情や経験を呼び起こす。

Q.最新の現代アートのトレンドは?

日本では、アニメ風イラストアートや3DCGを駆使したもの、映像作品を絵画や彫刻と組み合わせて展示するインスタレーションなどが注目を集めている。世界の最も大きなトレンドは、NFT(非代替性トークン)やブロックチェーン技術によるデジタルアートの台頭だ。これまでコピーの問題などで価値が上がりにくかった写真や映像作品などもデジタルデータ化で唯一無二の価値が付与されるようになり、その市場は急速に拡大している。

Artists recommended by Mr.Someya

  • 「BREATH(呼吸)」
    シリーズ

池谷友秀TOMOHIDE IKEYA

スキューバダイビングの経験から、水中世界の非凡な環境にインスピレーションを得るフォトグラファー。水が持つ生命を育む力と奪う力に焦点を当て、その哲学的含蓄を発信している。写真の「BREATH(呼吸)」シリーズは、「死」と背中合わせの状況下で必死に生きようとする人間の「生」と「美」をコンセプトとする作品群。

Artists recommended by Mr.Someya

  • 「Giselle Aika Bauer αU #01 Ed:2/2」

ジゼル愛華GISELLE AIKA

写真の作品はKDDI発の新ブランド「αU」のために描き下ろしたビジュアルで、自身初のNFTコレクション。日本の〝カラフルで可愛い〞文化をテーマにし、キラキラした目が特徴的。彼女にとってのピクセルアートは、1ピクセルの小さな四角が重なって進化し続ける、無限の創造世界。

Q.気に入ったアーティストの作品を買うにはどうすれば?

ギャラリーや百貨店の展示会は敷居が高いと感じるならば、アーティストやギャラリーが集って展示・販売を行うアートフェアに出掛けよう。思いがけない作品との出合いがあるかもしれない。オンラインショップは全国どこからでも購入可能だが、サイズ感や質感を確認し難いという点がある。アーティストによっては、InstagramのDM等から直接問い合わせをして、購入の相談をすることも可能だ。

Q.作品の価格はどう決まる?アーティストが亡くなると価格は上がる?

作品の価格は、アーティストの知名度、サイズ、使用する素材、制作時間と技術、さらに需要と供給で決まる。当たり前だが、人気アーティストや話題の作品は価格が上がる。また、一般的にアーティストが亡くなると新しい作品が作られなくなるため、流通している作品の希少性は高まるが、アーティストによっては、亡くなった後急速に忘れられて市場価格が低下することもある。

世界のアート市場レポートによると、2024年のアートマーケット総売上は約575億ドルで、日本のアート市場が占める割合はわずか1%。しかし各国の市場が軒並み低迷する中、日本は前年比2%の成長で、〝世界一美術館に行くが、世界一アートを買わない〞と揶揄される日本アート市場に変化の兆しが見える。

「最近は、日本の新進気鋭の次世代アーティストが、海外のアートフェアや展示会に積極的に出展し、その独自の表現や視点が高く評価されています。海外で話題の作品は、国内でもコレクションや投資対象として注目され、日本のアート市場に波及効果をもたらしています。オンラインギャラリーやNFTマーケットでグローバルに活動する次世代アーティストも多く、今後現代アート界を牽引していくと思います」

次世代アーティストがもたらした、芸術の新しい楽しみ方とは。

「SNSの普及で、アーティストが自分自身のプロモーションを簡単に行える時代になりました。かつての、繊細で内気なアーティストをギャラリーが応援し売り出すという構図が崩れ、アーティスト自身に自己プロデュース力が求められるようになっています。自分の作品の露出方法や、分かりやすい作品の解説などが必要で、アーティストと見る側、買う側の距離が近くなって、作品だけでなく、アーティスト自身も見られるようになったと言えます。アーティストの破天荒な生き方や思いに触れると、ますます現代アートが楽しくなりますよ」

Artists recommended by Mr.Someya

迫真のストローク
そこに宿る生命のエネルギー

  • 赤猫
    2025 oil on canvas 1000×803mm/F40

  • FROLIC
    2025 oil on canvas 727×606mm/F20

  • FOREST ANTS
    2025 oil on canvas 652×530mm/F15

木原千春CHIHARU KIHARA

1979年生まれ。独学で絵画制作を開始。VOCA2006出品。第13回前橋アートコンペライブ2009グランプリ受賞。2012年以降毎年(14年を除く)、roidworksgalleryで個展「Vitalism」を開催。2015年「ペコちゃん展」(平塚市美術館)などグループ展、アートフェア出品多数。2016年以降、5分間で描いたドローイング作品を日々メルカリで販売し続け、その数は約1万2000点に上る。2020年星野リゾート 界 長門メインロビーに作品設置。2024年銀座 蔦屋書店で個展「Vitalism Ⅻ」開催。「生き物の生命力や万物のエネルギーの源を表現し、それらを映し出していくことにより、個が持つ力強い場所に原点回帰しながら絵画を生んでいければと思います」と言う。

Artists recommended by Mr.Someya

多岐にわたるコラボレーション
特異な世界観で注目のZ世代

  • reflect XVIII
    910×727×40mm/F30 Oil on canvas

  • reflect XXVI
    652×455×40mm/M15 Oil and acrylic on canvas

鈴木一世ISSEI SUZUKI

2001年生まれ。高校在学中に初の個展を開催。2022年にはadidasとのコラボレーションによる個展を東京、大阪にて開催。2023年夏には文化庁主催の音楽とアートを融合するプロジェクト「MICUSRAT(マイクスラット)」に選出され、巨大ビジョン・大型立体作品を展示するなど多岐に渡る活動によりZ世代注目のクリエイターとして活躍中。

Artists recommended by Mr.Someya

現代のための「新しい風景」を描く
若き冒険者

  • SUPER FORMULA HRC Racing Driver 太田格之進 with A-KEYS DESIGN
    Honda Racing所属のレーシングドライバー、太田格之進のヘルメット制作を担当。ほかにもスキークロス日本代表、中西凜のヘルメットを制作するなど、スポーツ界とのコラボレーションも増えている。

  • 2024-2025 JR上野駅The Arts Fusion by L’écrin 常設作品
    2024〜2025年にかけ、JR上野駅構内のフレンチレストラン Brasserie L’écrin に常設となる大壁画を制作。ライブペイントによって制作された絵画の総長は20mを超える。同店が芸術と関わりを持つきっかけとなり、店名がThe Arts Fusion by L’écrin に変更となった。

真田将太朗SHOTARO SANADA

2000年生まれ。東京藝術大学美術学部を卒業後、東京大学大学院学際情報学府修士課程に在学中。画家として活動する傍ら、人工知能開発を通じて人間の創造性の根源を探る、美学と工学の領域横断研究に従事。独創的な重力や時間の解釈を取り入れた「新しい風景画」が早くから高い評価を受け、Art Olympia 2022、東京藝大アートフェア優秀賞、ベストデビュタント2025などを多数受賞。

※2025年11月4日現在の記事です。詳細はお問い合わせください。

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