茶殻でおひたしなどを作る場合には、一番茶、新茶、玉露などの、早い時期に収穫されたお茶の葉が柔らかくてお薦めです。緑茶にはビタミン類が多く含まれていて、色も緑黄色野菜と変わらないのに、なぜか栄養学上は「嗜好品」に分類されるんですよね。でも、食物繊維も摂取できるし、野菜と変わらないと私は思っています。
「飲料」としてだけでも魅力的なのに「食材」としての可能性まであるなんて。考えただけでワクワクさせられます。
お茶の伊藤園が社員育成とお茶の啓蒙普及のために実施する厚労省認定の社内検定「ティーテイスター」。
この検定で超難関の1級を所持する廣上紀子さん。
「お茶のエキスパート」である廣上さんが、「ワクワクする」と語るお茶の持つ魅力とは。
Photographs_HISHO HAMAGAMI.
PROFILE
廣上 紀子
北海道興部町生まれ。短期大学で栄養学を学び、株式会社伊藤園入社。北海道旭川支社で17年間事務職に従事し、現在は東京本社広域流通営業本部に席を置き業務にあたる。その傍らでティーテイスター1級として全国各地で実施するセミナーやイベントでの講師活動、後進の指導にもあたるなど、お茶のエキスパートとしてお茶の美味しさ、楽しみ方の啓蒙活動に努めている。
日本茶を熱く語る仲間が原動力になり難関1級を突破
「昔から野菜やフルーツが苦手で食べられないのですが、不足分の栄養は日本茶を食べて補っています。海藻みたいで美味しいんですよ」
廣上さんのお茶にまつわるお話は、時間を忘れるほどに楽しかった。
茶葉製品、緑茶飲料国内最大手の株式会社伊藤園では、社員がお茶に関する高い知識と技能を身につけ、社内外でお茶の啓蒙活動が行えるようにと、1994年から「伊藤園ティーテイスター」という社内資格制度を運営している。1級から3級までが用意され、試験では学科・検茶・口述でお茶に関するあらゆる知識と技術が求められる。廣上さんが持つ1級は、高い専門性が重視され、2級合格後、受験資格を得るための試験や研修で最低6年の時間を要するという超難関だ。現在1級所持者は有資格者約2300名の1%にも満たないわずか19名。その存在は社内でも特別で、まさにお茶に関するプロ中のプロだそうだ。
「制度開始当初は全く興味が無くて、最初の受験も上司に勧められてとかなり受動的でした。でも、試験勉強や級をステップアップする中で、普段の業務では接することのない部署や役職の方とお話しする機会が増えていくのが楽しくて。皆さんがお茶の魅力を熱く語る姿に、『私もこの輪に入りたい』と思って夢中で勉強するようになりました」
2級に合格し、お茶のセミナーで講師を担当するようになると、新たな課題に向き合うことになる。
「どうしたら飽きずに話を聞いていただけるか、ファンになっていただけるか、日々悩みました。お茶のワークショップがあれば全国どこにでも足を運び、とにかくお茶について学びました。そして、あるワークショップで『玉露の茶殻を食べる』という経験をしたのですが、野菜が苦手な私でも完食できるほど美味しくて。茶殻は捨てるものという認識が覆された衝撃の体験でした。セミナーでも茶食の話はすごく興味を持ってもらえます。そして、このテーマで1級試験に臨み合格しました」
ティーテイスターの認知を上げ、日本茶の魅力を広めたい
通常業務にティーテイスター1級業務にと、多忙を極めた廣上さんは、自分を見つめなおす時間を作るため、制度を活用して一時的に仕事から離れた時期があるそうだ。
「休職中はマレーシアで気ままにお茶のワークショップを開催したり、和菓子店で和菓子作りを学ばせてもらったりしていました。業務では体験できないお茶との付き合い方に触れて、新しい道が見えてきた気がしています。お茶の素晴らしい魅力をもっと広めていくために、ティーテイスターの役割、認知度を高めていくのが私の使命なのかなと今は感じています。そしていつか、海外で地域の人とお茶でつながる『サロン』が作れたら良いなと思っています」
お茶について熱く語る先輩同僚に憧れた廣上さんは、今や自身がティーテイスター1級として後進の指導に携わっている。廣上さんのお茶愛は、きっとこれからも多くのお茶ファンを育てていくに違いない。
- お茶セミナーで講師を務める廣上さん。
- 茶殻を使ったポン酢のお浸しとおかき。茶器も廣上さん所有のものだ。
廣上さんが手掛けた芸術的とも言える手もみ茶葉(写真左。右は機械もみ)。手もみの資格を持つのは、伊藤園でもわずか2名だけだそうだ。
株式会社伊藤園
住所:東京都渋谷区本町3-47-10
TEL: 03-5371-7111