TOP MAGAZINE熱視線 ー夢追い人ー 平田鍛刀場 代表 村下(むらげ) 平田 のどか玉鋼(たまはがね)の全てを学びたい

平田鍛刀場 代表 村下(むらげ) 平田 のどか
玉鋼(たまはがね)の全てを学びたい

「基準値が高い」と夫からよく言われます。出来上がったものに満足してしまうと、「もういいや」と思ってしまう性格なので、夫から「完璧な出来栄え」と言われても、そこからさらに改善点を見つけます。夫婦でやっているので、毎回感想が聞けて、お互いにすぐに技術をアップデートできるのが平田鍛刀場の強みです。

より良いものを常に求めていきたいから
今の自分に満足はしないようにしています

東京青梅の工房で、世界でただ一人、女性の村下として刀の原料となる
玉鋼を作る平田のどかさん。弱冠27歳。製鉄歴は5年と、村下としてはまだまだ若いが、
師でもある夫をも唸らせるその技術力と情熱は、まぎれもなく熱くたぎっていた。
※たたら製鉄における技術責任者のこと。

Text_YUMI KONDO.
Photographs_KAZUO ITO.

PROFILE

平田のどか
平田 のどか(ひらたのどか)

1998年生まれ、岡山県岡山市出身。岡山県長船で自家製鋼の名手 上田祐定刀匠のもとで修業していた刀工の平田祐平(すけひら)さんと出会い2018年に結婚。2019年に夫婦で東京都青梅市に平田鍛刀場を開設し、代表に就任する。祐平さんからたたら製鉄を学び、世界で唯一の女性村下として日本刀の原料となる玉鋼の製作に取り組む。3児の母でもある。

子育てと玉鋼づくりの
意外な共通点

衰退する日本の伝統工芸の現場に若い女性の姿が増えているという。平田のどかさんもその一人。旧来の徒弟制度も女人禁制の風習も軽やかに飛び越えて、世界でただ一人の女性村下として、たたら製鉄による玉鋼づくりに励んでいる。

「最初は夫の助けになればと思って手伝い始めたのですが、やってみたらとにかく難しくて、大失敗の連続でした。傍らから見ると炭と砂鉄を交互に入れるだけの単純作業に見えるのですが、炭の大きさ、砂鉄の量、火の色や風の音など、気を使うことがたくさんあって、その一つひとつ全てが品質に影響するんです。まるで細かいパズルを組み立てているように、しっかり集中して考えながらやらないと、結果につながりません。そこが難しくもあり面白く、どんどんはまっていきました」

たたら炉に火を入れたら付きっ切りで12時間、5分おきに砂鉄と炭を加える気の遠くなるような作業。

「たたら製鉄って、赤ちゃんのお世話に似ているなと思っています。赤ちゃんって、さっきミルクあげたから眠いのかな、抱っこして寝かそうとか。言葉は交わせなくても前後のやり取りから何をして欲しいかを推察していく。玉鋼づくりも同じで、炉の上から入れた砂鉄が焼かれて下まで落ちるのにだいたい1時間。感覚を研ぎ澄ませて火や風の状態をヒントに、1時間先を見越して次の一手を考える。そんな集中した時間が子育て同様にとても楽しいんです」

技術を磨いて目指すのは
古刀に勝る刀

子どもの頃から好きな事には寝食を忘れて熱中するタイプだったという平田さん。製鉄・鍛刀技術の研究にも余念がない。

「現代の刀づくりは水心子正秀という江戸時代後期の刀工が残した書物を参考にしているのですが、刀の全盛期は平安から安土桃山くらいまでの戦乱の時代です。古刀と呼ばれるその時代の刀は芸術面でも機能面でも現代刀より優れていて、私たちは古刀に勝るものを作りたいという思いで日々取り組んでいます。古刀の製法は文献に残っていないので、それらが作られていた土地に行って、どこでどうやって材料や水を調達していたのかを考えたり、自分たちならどうするかなとイメージしたりします。ヒントが限られているので、昔の人の生活道具を研究したり、野鍛冶さんに話を聞きに行ったり。古刀づくりに繋がりそうなものがあればどこへでも足を運びます」

どんな質問にもよどみなく答えてくれるその知識量と熱量に、取材中何度も驚かされた。

「日本刀は〝切る〟イメージが強いのですが、人生の門出を祝う嫁入り短刀や七五三の稚児刀、厄よけや成長を祝う守り刀などがあるように、実は〝守り〟の道具、守護の意味合いが強いんです。そうした日本刀の素晴らしさを世界中の人に知っていただけたら嬉しいですね。今は包丁の注文が多いのですが、ゆくゆくは刀の注文でいっぱいにして、昔のように、一家に一振あるようになったらいいなと思っています」

 

  • たたら炉から玉鋼を取り出す瞬間。冬でも熱中症になるほどの、熱さとの闘いだ。たたら炉から玉鋼を取り出す瞬間。冬でも熱中症になるほどの、熱さとの闘いだ。
  • 平田さんの玉鋼で作られた脇差。自家製の鋼から刀を作る工房は数えるほどしか残っていないそうだ。平田さんの玉鋼で作られた脇差。自家製の鋼から刀を作る工房は数えるほどしか残っていないそうだ。

師であり夫でもある刀工の平田祐平さんと。お二人の仲の良さが伝わる一枚。
師であり夫でもある刀工の平田祐平さんと。お二人の仲の良さが伝わる一枚。

平田鍛刀場
(外部サイト)

※2025年4月1日現在の記事です。詳細はお問い合わせください。

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