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写真家 榎並悦子
人に寄り添い、世界を写す

風景も人も一期一会。出会いは二度と戻ってこないので、その時は大きな思いを感じていなくても、出来る限り写真に残すようにしています。いつか大切な宝物になるかもしれませんから。カメラは常に自分と一緒にあります。どこヘ行っても写真を撮ってしまうので、夫からはシャッターウーマンと呼ばれています(笑)。

風景や人との出会いを大切にしたいから、
私はいつでもシャッターを押す

人と出会い、風景に触れ、心の動くままにシャッターを切る。一期一会を大切にし、
人や自然、風習、高齢化問題など、幅広いフィールドをしなやかな視線で切り取ってきた
写真家の榎並悦子さんが、作品を通して伝えたいこととは。

Text_YUKI KATORI.
Photographs_HISHO HAMAGAMI.

PROFILE

榎並悦子
榎並悦子

京都府出身。大阪芸術大学写真学科卒業後、岩宮武二写真事務所を経てフリーランスに。アメリカに暮らす小人症の人々を取材した写真集『Little People』(朝日新聞出版)で第37回講談社出版文化賞写真賞を受賞。主な写真集に『日本一の長寿郷:山口県東和町』(大月書店)、『園長先生は108歳!』(クレヴィス)、『光の記憶 見えなくて見えるもの―視覚障害を生きる』(光村推古書院)などがある。現在全日本写真連盟副会長も務める。

幅広いフィールドで
写真を撮る理由

あるときはアメリカに住む小人症の人々、あるときはインド北東部の少数民族、またあるときはパリの街並みや下町の子どもたち……。写真家 榎並悦子さんの活動範囲は世界中で、実に多岐にわたる。

「大学生のとき、撮影テーマを探していてふと自宅の机に飾っていた造花に目が留まったんです。それは中学生のときにボランティアで訪問した盲老人ホームのおばあさんが作ってくれたもので、ホームの皆さんが目が不自由ながらすごく生き生きと暮らしていたのを思い出したんです。そこから皆さんを撮りたいと思い始めて、何度も通ってお許しをいただき、2年ほど、週一で通い撮影をさせていただきました。その写真をまとめて写真展を開いたのですが、それを新聞に取り上げていただき、『女流写真家』と紹介されて。だからある朝起きたら写真家になっていたというのが、はじまりのエピソードです。写真家になる方法も分からなかったですし、なれるとも思っていなかったので驚きでした。

社会的マイノリティの方々を撮ることもありますが、こだわっているわけではありません。ただ、世界は広くていろんな場所があっていろんな人がいて、いろんな考え方があります。その中で自分が見たり出会ったりしたことを、多くの人と共有したいという思いが、撮影することの原点になっているとは思います」

写真が導いてくれた
風景や人との出会い

この取材をしたのは、榎並さんが20年以上にわたって追い続けている富山県の伝統的な祭事「越中八尾おわら風の盆」を紹介した大きな写真展を終えたばかりの7月中旬。会場は連日多くの方で賑わっていた。

「この民謡行事は300年以上の歴史を持つとても古いお祭りで、その幻想的な雰囲気に魅せられて毎年通わせてもらっています。中でも今私が一番撮りたいのが、〝影〞です。長く通っているので、昔に出会った方の中には鬼籍に入られた方もいるのですが、その方々が踊り手や楽器が奏でる音楽の〝影〞に潜り込んで、帰って来ているような気がするんですよね。そういった目には見えない、行事に込められた人々の想いとか、〝何か〞を伝えられたらと思って撮り続けています」

東京の下町、谷根千も榎並さんの琴線に触れたテーマの一つだ。今年の一月には「裏から廻って三軒目・東京」というタイトルで1980年代後半に撮影したモノクロ写真の作品展を開催した。近くKindle版の写真集も発売予定だそうだ。

「上京したての頃、東京は青山や六本木みたいなおしゃれな街ばかりと思っていたのですが、下町で見たのは昔ながらに裏道で元気に遊びまわっている子どもたちでした。顔なじみになった方が『お茶でも飲んでいきな』と家に招いてくれることもしばしば。それが衝撃的でとても新鮮なことに感じたんです。撮影を通じて、知らない風景や知らない人と出会える。そんなところが写真の面白いところ。カメラは、私の世界をとても大きく広げてくれます」

  • 写真家になるきっかけとなった、盲老人ホームの方々を撮影した最初の写真集『都わすれ』(自費出版)。写真家になるきっかけとなった、盲老人ホームの方々を撮影した最初の写真集『都わすれ』(自費出版)。
  • こちらは最新写真集『越中八尾 おわら風の盆』(クレヴィス)こちらは最新写真集『越中八尾 おわら風の盆』(クレヴィス)

全日本写真連盟の副会長を務め、写真専門誌のコンテスト審査員などでもお馴染みだ。
全日本写真連盟の副会長を務め、写真専門誌のコンテスト審査員などでもお馴染みだ。

※2025年9月2日現在の記事です。詳細はお問い合わせください。

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