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大人のマナーをアップデート

めまぐるしく変化する現代社会において、何が正しいマナーなのか、判断に迷うことが多くなった。
だからこそマナーの本質を見つめ直し、根底にある考え方をベースにアップデートしていくことが、より心地よい人間関係を築くために重要だ。
マナーについて、改めて考えてみたい。

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マナーのアップデートは
その本質を見直すことから

マナーのいい人はスマートさを感じさせる。
どんな時も、好印象な大人のマナーを身に付けるにはどうすればよいか。
日本サービスマナー協会理事長として、多くのビジネスマンや学生にマナー教育を実践してきた澤野 弘さんにマナーの本質について伺った。

好印象な大人

監修いただいたのはこの人

澤野 弘さん
NPO法人 日本サービスマナー協会 理事長 澤野 弘さん

大阪府出身。関西大学商学部卒業。トヨタ自動車での営業職を経て教育分野へ転身し、専門学校にて学生募集やWeb戦略を担当。2005年に株式会社ワイズプラスを設立し、教育機関向けWebコンサルティングを展開。2008年より日本サービスマナー協会理事長として各種社員研修や検定事業を開始。現在は全国主要都市を拠点に、人材育成とマナー教育の普及に取り組んでいる。主な監修本に『大人の気くばり帖』(Gakken)など多数。

『大人の気くばり帖 新装版 人もお金も引き寄せる』Gakken 880円(税込)

『大人の気くばり帖 新装版 人もお金も引き寄せる』Gakken 880円(税込)

日本サービスマナー協会

航空、ホテル、旅行、ブライダルなど、高い接客品質が求められる業界を中心に、企業研修や人材育成を実施。大学生向けのビジネスマナー教育にも注力し、相手に配慮したコミュニケーションや状況に応じた適切な振る舞いを実践的に身に付けるプログラムを提供している。

「大人のマナー」とは、経験に裏打ちされた
「最適な言動を選択できる感覚」のこと

「マナーとは、人と人との〝潤滑油〞のようなもの。マナーがあることで、人間関係の摩擦が減り、より心地よいコミュニケーションが生まれます」と、日本サービスマナー協会理事長の澤野 弘さんは語る。

「マナーを使いこなすポイントは、常に相手の立場に立って考えるという心構え。マナーは本来、気配りの気持ちを具体的な形にしたものです。マナーとルールは同一視されがちですが、全く別物。ルールと違って、マナーには強制力や違反した時のペナルティなどはありません。それは、マナーには正解がないからです。

例えば、箸の使い方。料理を取り分ける時に〝逆さ箸〞にするのは好ましくないとされていますが、それを好ましいと感じ、実践する人もいます。口に入れる側と、手に持つ側、どちらを清潔だと捉えるかは人それぞれです。その場にいる人が、逆さ箸を受け入れているのであれば、『それはマナー違反』にはならなくなります。もし、逆さ箸がマナー違反だと感じるならば、最初に『取り箸を使いましょう』と提案するのがよいでしょう。〝みんなで楽しく食事をする〞ために、自分がどう振る舞うべきかを考えることが大切です。マナーの目的はあくまで、より多くの人が不快な思いをせず、居心地よい時間を過ごせるようにすることですから」

時代とともにマナーは変化している。コロナ禍を経て、ビジネスではオンラインでの打ち合わせが一般的になり、SNSでのやり取りなどでも、よりマナーを重視した運用が求められるようになった。「マナーをアップデートする」とは、単に最新の流行や形式を取り入れることではなく、会話や関係性の中で、リアルタイムに「適切」か「不適切」かを判断できるスキルを磨くことだと澤野さんは言う。

「大学を卒業して約50年が経ちましたが、当時新入社員研修で学んだ基本的なマナーの多くは、今も変わっていません。もちろん、髪型や服装といったパーソナルな点などは時代とともに変化しますが、根本の心構えや思いやり、配慮の姿勢は変わりません。大切なのは、従来の価値観で失礼だと思うことや、相手がどう感じるかばかりを気にするのではなく、多様性を受け入れ、自分自身で柔軟に判断できる力を持つことです。長年の人間関係や経験の中で磨き上げてきた、状況に応じて最適な言動を選択できる感覚、これこそが〝大人のマナー〞です。基本的な決まりごとは押さえつつ、常に自分自身で考えて、自然に振る舞える方を見ると、とてもスマートだなと思います」

マナーに自信がある人も、この機会に自身のマナーを見つめ直し、アップデートを試みてはいかがだろうか。


覚えておきたい最新マナー事例 【日常編】

【会食】
食事中のスマホ使用は要注意! マナーの基本に立ち返ろう

スマホはすっかり日常に欠かせないものになったが、マナーの基本に立ち返れば注意すべき点は多い。まず、スマホを見ながらの「ながら食べ」は原則的にマナー違反。外食先であれば提供してくれた方々への感謝を込めて食事に集中を。会食の場合はなおさらNG。相手の貴重な時間でもあることを忘れず、料理や会話に向き合おう。また、外食先で料理を撮影したり、それをSNSに投稿したりする場合には、事前にお店の方に一声かけて許可を取るか、撮影禁止の注意書きがないか確認することも大切だ。食事中やむを得ずスマホを使う場合は音を消して、通話は席を外して行うこと。

そのほか、香りの強い香水をつける、レジの前で割り勘の精算をする、食後に長居するなども好ましくない。予約のドタキャンはマナー違反どころか完全に迷惑行為なので、やむを得ない場合は電話できちんと連絡し、必要であればキャンセル料を支払おう。

会食

【年賀状・お中元・お歳暮】
虚礼廃止しても、感謝の気持ちを伝えることは忘れずに

メールやSNSの普及に伴い急増している「年賀状じまい」だが、いきなり止めるのは配慮不足。相手は年賀状を準備しているかもしれないので、まずは「本年をもって皆さまへの年賀状でのご挨拶を控えさせていただくこととしました」と書き添えた年賀状を送り、翌年から止めるのが好ましい。

贈り物は儀礼的な習慣化された贈答を繰り返すのではなく、相手の好みやライフスタイルを踏まえて商品を選び、相手のお返しの負担など、贈答の必要性の見直しも意識しよう。お中元やお歳暮を止める際には、代わりに電話や手紙で挨拶し、感謝の気持ちは引き続き伝えよう。

なおビジネスの現場では、お中元、お歳暮などを廃止する企業が増えているため、感謝の意を伝えたい場合は訪問時の簡単な手土産程度にとどめるのがスマートだ。ただし、企業や業種によっては賄賂と見なされてしまう可能性があるので、商品価格の配慮も必要だ。

年賀状・お中元・お歳暮

【通夜・告別式】
家族葬が増えた昨今、最優先するのは「遺族への配慮」

昨今は、コロナ禍により多人数の参列を避けるようになったことや喪主の高齢化など、さまざまな要因により「家族葬」が一般的になってきた。遺族が参列や香典の辞退を望んでいるなら、「ぜひお別れをしたい」という個人的な思いは抑え、遺族の意向を尊重すべきだ。後日故人とのお別れを希望する場合も、遺族の意向に配慮したい。

通夜に呼ばれた場合の服装にも注意。以前は亡くなった当日の通夜が多く、普段着で駆け付けてもOKとされたが、近年は翌日以降の通夜が一般的で準備の時間も取れるため、しっかり喪服で参列を。

また、かつては積極的に手伝いを申し出るべきとされたが、現在は「何かあればお手伝いさせていただきます」程度にとどめるのがスマート。

喪主として家族葬を選ぶ場合は、親しい方が「知らなかった」とならないよう、「家族だけの葬儀を行う(行った)」旨をしっかり伝えること。

通夜・告別式


覚えておきたい最新マナー事例 【ビジネス編】

【オンライン会議】
対面でないからこそ、細やかな配慮を心掛ける

コロナ禍以降浸透したオンライン会議は参加者と直接対面しないため、より細やかな配慮が求められる。例えば自分が発言する時以外はマイクをOFFにする。これを怠ると、思った以上に周囲の音を拾ってしまい、参加者全員にとってノイズとなる。また表情も大事な情報なので、カメラはONが基本。どうしてもOFFにする必要がある場合は、一言断りを入れる配慮を。背景画像も無駄な情報を出さない配慮として使用するのがおすすめ。マイクやカメラの不具合で参加時間に間に合わなくなる、共有すべき資料を探すのに時間がかかるなども、オンライン会議ならではの避けるべきポイントだ。他の参加者の時間を無駄にしないために、しっかりと準備を整えて臨もう。

見落としがちなのは、自分の周囲にいる人への気配り。イヤホンをすると、人は無意識に大きな声で話しがち。周囲への影響を考えて場所を選ぶことにも気を遣いたい。

オンライン会議

【ビジネスチャット、SNS】
気軽に発信できるからこそ、より慎重に活用を

スピーディーなコミュニケーションツールとして普及したビジネスチャットでは、長文を連投したり、既読スルーが多くなったりすると、スピーディーさが損なわれる上、相手の時間を奪う結果になりかねず本末転倒だ。また、手軽に発信ができるからといって、いつでも発信してよいわけではない。受信する側の対応も考えて、電話同様発信は勤務時間内のみにするのが基本だ。絵文字やスタンプはニュアンスや意思を伝える一助となるが、相手との関係性や場面を考えて使用しよう。使い方を間違えると、不快感や無礼な印象につながりかねないので要注意。

SNSの利用では、画像・映像のアップに注意を。著作権などの問題のほか、業務上で知った情報などは情報漏洩として問題になる可能性もあるので常に意識しよう。言うまでもなく、誹謗中傷やデマの拡散、権利の侵害は言語道断だ。手軽さの反面、慎重さも求められるという点を忘れずに。

ビジネスチャット、SNS

【対人関係】
大切なのは相手を尊重すること

部下への厳しい指導や叱責は、パワーハラスメントになることもある。一方、適切な指導や業務の割り振りを行わないと、ホワイトハラスメントとなる恐れも。これらを避けるためにも、相手を尊重し、一緒に問題解決に取り組むなど、質の高いコミュニケーションを目指そう。

近年はビジネスの現場も多国籍化している。国が違えば常識やマナーの考え方はさまざまだ。相手を尊重するには、より柔軟な対応が求められる。そこで意識したいのが「アサーティブ・コミュニケーション」。これはお互いの立場や意見を尊重しつつ、自分の意見や気持ちを正直に伝えるコミュニケーション手法。例えば相手のミスに対してもすぐに「間違っている」と決めつけず、まずは自分の言葉で意見をはっきり伝え、その上で相手の意向を確認し、尊重する。丁寧に合意形成すれば、認識のすれ違いによるミスが再発しにくくなり、関係も円滑になるはずだ。

対人関係


いつの時代も変わらない「不変的なマナー」を再確認

社会の変化に合わせてアップデートすべきマナーがある一方、時代が変わっても変わらない不変的なマナーも多い。その一部をおさらいしよう。当たり前のようで意外と知らないマナー、勘違いしているマナーもあるかもしれない。

マナーの基本3要素

  • 【挨拶】

    相手を思いやり、信頼関係を築くための基本中の基本。特に「ありがとう」は、スラッと言えるようになろう。

  • 【言葉遣い】

    正しい言葉遣いも大切なマナーの一つ。相手を尊重するための表現として、時に使い分けることも必要。

  • 【清潔感】

    不快感を与えない身だしなみを意識するのは大人のマナー。カジュアルな服装でも、清潔感を大切に。

  • 【箸】

    器に箸を置く「渡し箸」、箸で人やものを指す「指し箸」、箸で器を動かす「寄せ箸」、両手で箸を挟み拝む「拝み箸」など、いわゆる「嫌い箸」といわれる箸のマナーは多数ある。大人のマナーとしてぜひ身に付けておきたい。

    【訪問】

    訪問先の家に外の汚れを持ち込まないよう、コートや帽子は玄関前で脱ぐ。靴を脱ぐ時は相手に背を向けず、家に入る向きで脱いで、さっと振りかえって向きを直すのがスマート。汗をかく暑い時期に訪問する場合は、替えの靴下に履き替えて上がるのが上級者の配慮。

    【正装】

    葬儀では喪服か略喪服(ダークスーツ)を着用。ポケットのフラップはしまい、パンツのダブル裾はNG。華美な時計や眼鏡なども不適切だ。結婚式は礼服、ブラックまたはダークスーツが基本。新郎新婦よりも華美になり過ぎないように注意を。いずれも相手への思いを込めた正装で臨むようにする。

  • 【贈り物・手土産】

    縁起が悪いとされる品物は避けること。例えば櫛(苦・死)、シクラメン(死・苦)、ハンカチ(手布=手切れ)、キャンドル(お香、また新居・新店舗に「火もの」はNG)、文房具(「勉強しろ」の意味になる)などだ。相手に持ち帰ってもらう場合は「運びやすさ」、食品であれば「賞味期限は十分か(生ものはNG)」「相手先の人数に対して適切か」「個包装(配りやすい)かどうか」など、相手の立場に立った視点でチョイスしたい。

    手土産は渡すタイミングも大切。玄関先で渡すのは基本NGだが、要冷凍・冷蔵のものは例外だ。袋がある場合、相手の家や職場なら取り出して品物のみを渡し、袋は持ち帰る。ただし外で渡すなら袋ごと渡した方が、相手にとって便利なはず。その際は「袋ごとで失礼します」と添えるのがスマート。

    贈り物も手土産も、相手に感謝を伝えることが本来の目的だ。ただ渡すだけでなく、気持ちを伝えることを意識しよう。


「マナーには正解がない」ことを忘れずに

「マナーには正解がないので、今回紹介したマナーが全て〝正しい〞とは限りません。なので、決して〝マナー警察〞にだけはならないようにしたいところですね。人と人との心地よいコミュニケーションのための〝潤滑油〞であるマナーが摩擦を生んでしまっては、本末転倒です」と澤野さんは言う。

現在最適とされているマナーも、社会や時代の変化とともに、いずれ変わっていくかもしれない。自分なりの価値観を持ってマナーを学び、身に付け、磨いていく姿勢は素敵だが、それを他人に押し付けるのではなく、人にも、多様な価値観にもしなやかに向き合えること。そんな立ち居振る舞いができる人こそが、〝本当に品格のある大人〞と言えるのではないだろうか。

コミュニケーション

※2026年3月3日現在の記事です。詳細はお問い合わせください。

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