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その時が来る前に 相続のはなし

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※本特集の情報は2018年7月現在のものです。情報は変更になる場合がありますので最新の情報をご確認ください。また、相続に関する情報の詳細は税理士などの専門家にご確認ください。

家族が亡くなることなど、あまり考えたくないものではあるが、その時はいつかやってくる。家族が遺してくれた財産は、家族の将来のために遺されたもの。それがもとで争族になってしまっては元も子もない、本末転倒だ。
遺産をしっかりと守り、家族皆の未来を築く。それが私たち遺産を受け継ぐ者の使命。そのためにできることをしっかりと考え、正しい相続の知識を身につけて、いつか訪れるその日に備えよう。

いつか必ずおとずれるその時のために相続で家族の未来を築く

その時になって始めたら、あなたはきっと相続で苦労することになる。相続をスムーズに行うためには、事前の準備が不可欠だという。今からできることは何か。改めて相続について考えてみたい。

他人事では済まされない相続問題の現実

 高齢化に伴い資産を持つシニア世代が増えたことで、相続への関心は年々高まっている。さらに、2015年に相続税の見直しで基礎控除額が引き下げられ、納税対象者も大幅に増えている。

 相続は、親族の「死」に関わる問題であり、できることなら避けて通りたいテーマだが、実際の相続の手続きは意外と複雑で面倒。しかも親族が亡くなるという一大事の中、気持ちの整理もつかない状況で手続きを進めなければならないという現実がある。では、私たちはどのように相続を考え向き合えば良いのか。まずは顧客から相続に関するさまざまな相談を受け、日々アドバイスをおこなっている、野村證券渋谷支店の野呂、村上両氏に話をうかがった

まずは自身の相続環境を把握することが重要

村上 当社のお客様で、資産の運用にご熱心な方でも、相続についてのご相談をされる方は少なく、こちらからご提案をして初めて検討されるという方がほとんどです。2015年の相続税法の見直しによって、従来5000万円+(1000万円×法定相続人の数)であった基礎控除額が、3000万円+(600万円×法定相続人の数)となり、新たに課税対象となる方が確実に増えましたので、私どもも以前よりも気にかける機会が増えたと思います。

野呂 相続について考えることを先延ばしにしている方に共通するのは、正しい情報をお持ちで無いという点だと思います。特に、遺産を引き継ぐか否かは相続開始から3ヵ月以内に申請し、相続税納税は10カ月以内という期限があることを、ご存じでない方が多いのです。相続では、どの財産を誰がどのくらい引き継ぐかを法定相続人全員で決める、「遺産分割協議」をおこないますが、財産や相続人の確認で時間がかかってしまったり、話し合いがスムーズにまとまらずに納税期限が過ぎてしまい、遅延金が発生するといったケースも実際にあります。そういった事態を招かないためにも、最低限、財産や法定相続人については事前に把握しておきたいですね。

村上 相続税の計算などは良く分からないから、いざとなったら税理士や会計士に頼めばよいとお考えの方も多いのですが、実際には誰に頼めば良いかを正確に把握していらっしゃる方も少ないと思います。実際には、すべての税理士や会計士が相続について詳しい訳ではありませんし、逆に、私たちのような金融機関のスタッフが、相続についてさまざまなアドバイスをおこなっていることをご存知の方も、決して多くはありません。そして、もし専門家に手続きを依頼したとしても、手続きをおこなうにはお客様の財産や相続人全てを把握する必要があり、その作業は専門家であっても時間を必要とする作業になります。限られた時間での手続きが必要になる相続では、その時に備えて、どれだけ自身の相続に関する状況を把握できているかが、手続きをスムーズに進めるポイントになるのです。

野呂 相続には配偶者や、宅地に関する特例など、知っておけば必ず役に立つ情報が多くありますので、まずは相続の対象となる財産の把握、そして誰が相続者になるかの把握をしておくべきかと思います。その点がある程度明確になると、私どももアドバイスできる幅が広がります。

相続でトラブルを起こさないためには遺言書の作成が大切

村上 相続関連でもっとも時間がかかり、かつトラブルが多いのが、誰にどの財産をどう分けるかという点、いわゆる「遺産分割協議」なのですが、遺言書があれば、かなりスムーズに話が進みますので、遺言書の作成はぜひご検討いただきたいですね。
 法定相続人の範囲と順位は民法で定められていますが、分割については法定相続人の遺留分を侵害しない限り、遺言書の内容が優先され、その内容に従って遺産は分割されます。ただし、遺言書の記載に不備があると、正式な遺言として認められません。遺言書には手軽に作成できる自筆証書遺言と、公証役場で公証人に作成してもらう公正証書遺言があるのですが、正確性・確実性という意味では、公正証書遺言の方が安心かと思います。

野呂 遺言書を作るにも、やはり財産と相続人の把握は不可欠です。意図しない不平等な内容があったり、明記されていない財産などがあると、残された家族の間のもめごとの種になりかねません。最近は、「エンディングノート」など、ご自身の歴史を振り返りながら、相続に必要な情報を整理できるものがいろいろあるので、こういったものを積極的に活用してみるのも良いと思います。相続者となるご家族から、相続についてのお話を持ち掛けるキッカケ作りとしても役立つと思います。

相続対策=節税ではなく、家族の資産を守るためのもの

野呂 相続対策を節税対策とお考えになる方は多いのですが、相続対策とは税金を軽減するためだけのものではなく、いかにファミリー共有の財産をのこして、将来のために役立てるかを考える、「想続」なのだと思っています。

村上 例えば、相続税の課税価格を減らす方法には、現金よりも評価額が低い不動産の活用、相続税よりも税率が低い生前贈与の実施、生命保険を利用して相続対象財産を減らすなど、さまざまな方法がありますが、これらは「節税」という特別なテクニックではなく、私たち家族が築いた財産を守るための、家族の未来のための「権利」と考えていただきたいですね。

野呂 生前贈与は年間110万円の基礎控除がありますから、この範囲なら贈与税なしに財産を移転することができますが、大きな額を贈与するには何年もかかります。また、不動産の売買にしても、短時間で売買が成立するとは限りません。どんな対策にも、ある程度時間が必要ということです。その時が来て、慌てて動くのではなく、計画的に動くことで家族の財産を確実に守る。それが相続の正しい対策、考え方なのだと思います。そのために、今できることからしっかりと準備をしていただきたいと思います。

 個人で100%の知識を身につけ、完璧に相続の手続きをおこなうのは、かなり難しいだろう。だからこそ、まずは自身の相続に関する状況を把握し、野呂氏、村上氏のような信頼できるスタッフのいる金融機関や、相続に強い税理士など、専門家に相談して準備を整えることが重要になる。せっかく家族がのこしてくれた大切な財産を、無駄にしたり家族の争いの種にしないためにも、しっかりと準備をして、その時に臨む必要があるのだと思う。

PROFILE

【お話をうかがったのは】

野村證券株式会社渋谷支店

ウェルス・パートナー課 課長代理

野呂佳代氏(左)

ウェルス・パートナー課 課長代理

村上沙希氏(右)

野村證券では、通常の顧客サービスの一環として相続の相談にも対応するため、相続に関する知識の向上に、積極的に取り組み、野村不動産、野村信託銀行など、グループ会社とも連携を行いながら、相続に関するさまざまなアドバイスをおこなっている。

不動産の特性を理解して、賢く相続する不動産相続の準備と対策

不動産ほど事前の準備が大きく影響する相続財産はない。相続時の評価方法や特例を知ることで、不動産相続は未来に遺せる強い味方になる。

相続対策の王道といわれる不動産を扱うポイント

 日本で相続される財産のおよそ4割が不動産だといわれる。不動産の相続は現金に比べて評価が低く見積もられるため、相続対策の王道といわれているが、その反面、分割しづらい、換金性が低いといった面もある。そんな一長一短合せ持つ不動産相続について、野村の仲介PLUS渋谷営業部の有川氏にポイントとなるお話をうかがった。

 現金や金融商品、美術品などに比べて、相続時の評価面で有利に扱われるのが不動産の特徴です。たとえば、土地は路線価で評価され実勢価格の8割、建物は固定資産税評価で実勢価格の7割が目安とされています。不動産で特に覚えておきたいのは、「小規模宅地等の特例」です。これは330㎡以下の自宅土地を相続した場合に、相続評価が80%減額されるもので、実勢価格のわずか20%で評価されます。

この特例には配偶者か、所有者の死亡時に同居していた親族が相続する場合などの条件がありますが、該当すればとても大きな節税になります。他にも店舗や事務所などの事業用宅地、賃貸物件や駐車場などの貸付事業用宅地に対しても減額特例があるので、そのような不動産をお持ちの方は、覚えておくと良いでしょう

不動産相続のメリットとデメリットを正しく理解する

 反面、デメリットがあることも忘れてはいけません。たとえば、一つの土地を複数の相続人で分割相続しなければならない場合、不動産は簡単には分割しにくく、現金化しようとしても、すぐに希望の価格で売れるとは限りません。相続の手続きには期限がありますから、相続が発生してから売却の手配をしていては、期限に間に合わなくなってしまう可能性がありますし、慌てて売却しようとすると、足元を見られて安く買いたたかれてしまう可能性もあります。また、売却するとなると、居住していた人は新たな住居を探さなければいけませんし、代々受け継いできた土地であれば、手放したくないという方もいるかもしれません。そうなると、遺産分割協議が不調に終わり、「争続」に発展してしまうことも考えられます。そんな状況を避けるためにも、相続対象になる不動産は、その価値を予め把握し、早めに対策を講じておく必要があります。

 事前の相続対策としては、条件にもよりますが収益性のある不動産を生前贈与する方法もあります。将来にわたって継続的な収益を見込める不動産、例えば賃貸物件などを生前に贈与すれば、評価額以上の財産を継げる可能性があります。被相続人が存命中にご自身の意志で贈与するので、公平な贈与であれば相続人どうしのトラブル回避にもなります。

 私どもでは、相続する可能性のある不動産を新たに購入されるお客様には、将来にわたり価値が下がりにくく、現金化しやすい物件をお勧めしています。相続後に大きく価値が下がってしまうと、現金を相続した方が良かったということになりかねません。もし値下がりしそうな土地を既にお持ちの場合には、より良い不動産への買い替えを検討すると良いでしょう。

 不動産を相続する場合には、今回お話をうかがった有川氏の野村の仲介PLUSのような、相続にも精通した不動産のプロのアドバイスを受けながら、しっかりと時間をかけて、計画的な相続をおこなうことを検討すべきだろう。

PROFILE

【お話をうかがったのは】

野村の仲介+(PLUS)
取締役  野村不動産アーバンネット株式会社
渋谷営業部 部長

有川雅彦氏

1991年野村不動産入社。2001年に野村不動産アーバンネット株式会社へ出向。中野、藤沢営業所所長、本社流通事業本部営業推進部、町田センター長、横浜営業部部長を経て、2017年4月より現職。

柔軟に相続対策をおこなえる生命保険活用の相続対策

法定相続人以外に財産を遺したい、もめごとにしない相続をしたい。そんな思いを実現できる生命保険を使った相続対策。ちょっとした発想の転換で、そのメリットを最大限活用する。

換金性の高い生命保険を賢く利用する

 相続対策の切り札として、生命保険が注目を集めている。節税対策になり生前贈与としても使える柔軟性で、確実に家族に財産を遺せる手段となる生命保険。ファイナンシャルプランナーであり、全国相続診断士会会長を務める一橋氏に、その活用方法をうかがった。

 保険金は受取人固有の財産となるので、被相続人の意思で特定の相続人に確実に財産を引き継ぐことができるとても有効な手段です。たとえば、介護をしてくれる同居する長男に家を遺したいと思っているけれど、遺産分割協議でもめる可能性があるとします。そこで、長男を受取人にした生命保険を掛けます。

 死亡保険金は長男の固有の財産になるので、他の相続人と分割する必要がありません。長男はその保険金を原資にして、家の分割分として代償金を支払うといった選択肢を広げることができるので、家を受け継ぎやすくなります。

 死亡保険金の非課税枠は、500万円×法定相続人の数なので、非課税枠の範囲の現金を生命保険に置き換えれば、課税対象となる現金を減らしながら、同額の現金を遺すことができる訳です。このように、生命保険はその特性を上手に活用することで、相続をよりスムーズに進めたり、相続税の課税軽減につなげたりできるのです。

 また、生命保険の活用でよく質問されるのは、相続を考えるような高齢者が保険に入れるのか、という点です。外貨建ての終身保険なら、健康状態に問題がなければ70歳くらいまで、一時払いの終身保険なら、保険会社によっては90歳まで契約できる商品があります。入院中でなく、判断能力がしっかりした方であれば、健康告知が不要な商品もあります。

リスクの少ない商品をしっかり見極めて正しく使う

 相続対策に使いやすい生命保険は、一時払いの終身保険です。ただ、現在は残念なことに円建て商品のパフォーマンスが悪いので、外貨建てのものがよいでしょう。また、贈与してもらったお金で生命保険料を支払う場合で、親が高齢の場合には、何年贈与(支払い)を続けられるか分からないので、親が亡くなった時点で支払いをストップできる「払済」可能な保険商品がおすすめです。相続で利用できる生命保険は種類が多いので、相続に詳しい専門家に相談してみるとよいと思います。

家族の絆を深めることで笑顔の相続を実現する

 悲しいことに、相続にはもめごとがつきものだといわれます。相続対策に生命保険の活用は確かに有効で、もめごとを最小限に抑える手段にもなりますが、相続をもめごとにしない最大の対策は、家族とのコミュニケーションをしっかり取ることです。親がなぜこのように財産を分けたのか、その思いを子どもたちが理解し納得していれば、不公平さを感じることも、もめることもないはずです。私は相続の相談を受けた際に、「エンディングノート」を活用して、家族間のコミュニケーションを深めることを提案しています。自分がどういう思いで生きて、子どもたちにどんな思いで接してきたか、そして家族との思い出などを書き留めていくことで、家族は親の思いを知り、絆を感じるはずです。遺すのは財産だけではなく、思いこそ遺さなくてはいけないのです。家族の絆を深めることでもめごとをなくす。これこそ究極の相続対策です。節税対策はその次の課題、順序を間違っては笑顔の相続はできません。

 つい財産の継承や節税ばかりに意識が行きがちな相続対策だが、本来は家族のために財産を遺した親の思いを、家族皆で共有するためのものだと一橋氏は話してくれた。相続とは家族の未来を築くもの。その意味を忘れずに、その時に備えたい。

PROFILE

【お話をうかがったのは】

笑顔相続コンサルティング株式会社
取締役 

一橋香織氏

相続診断士事務所 笑顔相続サロン®代表。全国相続診断士会会長。外資系金融機関を経てFPに転身。頼れるマネードクターとしてこれまで約2000件もの相続、お金の悩みを解決。講演・メディア出演、著書多数。近著『終活・相続の便利帳』(エイ出版)

END
※2021年11月30日現在の記事です。詳細はお問い合わせください。

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