※写真はイメージ
Text_JUNKO TAKEI(Trico-Pro).
日本酒のようで日本酒ではない
新ジャンル「クラフトサケ」とは?
日本酒の消費量が減る中でも、日本酒が好きで、自ら造り、広めたい、日本酒ファンを増やしたいと思う者たちがいる。
彼らは、日本酒造りを学び、その知識と技術を活かし、新しい酒を造り、日本のサケの新ジャンルを生み出した。
新規参入が難しい日本酒業界
クラフトサケとは何か…の前に、日本酒業界の現状をもう少し解説しよう。
日本酒の国内消費量の減少に伴い日本酒を造る酒蔵の数も減っており、国税庁の「清酒製造業の概況(平成30年度調査分)」によると、2003年に1836者あった清酒製造業者の数は、2017年には1371者に減っている。
ところが、日本国内向け〝清酒〟の製造免許は原則として新規発行されず、「日本酒を造りたい」と思っても、新たに製造免許を取得することができない。そのため、休廃業した蔵元を買収するか、既存の蔵元に製造を委託する以外に新規参入する方法はないのだ。
そんな日本酒業界に一石を投じたのが、新規発行が許されている「その他の醸造酒」の製造免許を取得し、2018年に東京都世田谷区で「三軒茶屋醸造所(休⽌中)」を開設した株式会社WAKAZEだ。日本の伝統的な酒の「どぶろく」の他、茶葉やボタニカル素材を副原料に使用した日本酒とは異なる新たな酒造りを始め注目を集める。そして、この活動に刺激を受けたのが、各地の酒蔵で修行し、いつかは独立して自らの日本酒造りをと考えていた若者たちだ。規制によってその夢を半ば諦めかけていた若き蔵人たちが、WAKAZEに続き、新しい酒造りに次々と挑み始めたのだ。
情熱が生み出した新しい酒
「クラフトサケ」の誕生
彼らが造るのは、日本酒の伝統的な製法をベースにしているが日本酒とはいえない新しい酒だ。そのため、この酒が「何か」を説明するのが難しく、それが普及の足かせに成りかねないと考えた造り手たちは、2022年6月に「クラフトサケブリュワリー協会」を設立。自分たちが造るサケを「クラフトサケ」と称し、「日本酒の製造技術をベースとしながら、従来の『日本酒』では法的に採用できないプロセスを取り入れることで、今までにない多様な味わいのお酒を造り出せる新しいジャンルのお酒」と定義づけた(※)。
自らも造り手であり、同協会会長を務める岡住修兵さんは、次のように語る。
「会員は皆日本酒が大好きで、自分で造り広めたいと思っていた方々です。免許の取得が出来ない現在それは叶いませんが、今できる最高の酒造りを目指しています。クラフトサケのイベントでは、日本酒のイベントでは少ない若い方も多く集まってくださいますので、クラフトサケを通じて、日本酒にも興味を持ってもらえたらいいなと考えています。今はクラフトサケを一過性のブームではなく、新しいジャンルとして確立させることに注力していますが、日本酒業界を盛り上げていくには新規参入の壁を取り払う必要があると感じており、法改正への働きかけもしていくつもりです」
日本酒の未来を考える、若き蔵人たちが造るクラフトサケ。さて、その味わいやいかに。
(※)酒税法上では「清酒」ではなく、「その他の醸造酒」「雑酒」などに区分され、フルーツやハーブなどの副原料を発酵過程で取り入れた「ボタニカルSake」や、日本酒で必須である「搾る(お酒と酒粕を分ける)」工程を経ない「どぶろく」などもこれに該当する。
フランス・パリ発信のクラフトサケ
WAKAZEは、「世界でSAKEが造られ、飲まれること」を目指し、2019年11月にフランス・パリ近郊に醸造所を設立。清酒だけでなく、バラを用いた酒やラズベリーを原料に加えたどぶろく、ホップを用いた酒など、新たなクラフトサケを醸造している。パリを訪れた際にはぜひ、パリ5区の直営レストラン「WAKAZE PARIS」で、その味わいを堪能しよう。
HOUBLON SAKÉ
パリのクラフトビールブランド「GALLIA」とのコラボSAKE。口に含むと柑橘系の香りが広がり、SAKEの酸味がホップの苦味と混ざり合う滑らかな後味。
ROSE D’ISPAHAN SAKÉ
米と一緒にバラ、ライチ、フランボワーズを発酵させたSAKE。甘酸っぱくジューシーな味わいで、チョコレートムースやベリーのソースを使ったデザートによく合う。
※いずれも価格はフランス現地価格、現在、国内販売はしていません。
「酒の聖地」となる未来を目指し
「男鹿の風土を醸す」
【稲とアガベ醸造所】
稲とアガベ株式会社
代表取締役
岡住 修兵さん
秋田県男鹿市に蔵を持つ稲とアガベ。使用する原料米は、自社で酒造好適米の自然栽培に取り組む他、契約農家である秋田県大潟村で栽培されるササニシキを用いる。精米歩合は食用米と同じ90%で米をほとんど削らず、自然の微生物の力でじっくり時間をかけて発酵させる「生酛造り」を行っている。稲とアガベの酒造りに欠かせないのが、男鹿のシンボル、寒風山北東麓にある「滝の頭」に湧く天然水だ。目指すのは、男鹿の自然、風土をそのまま瓶に詰め込んだような酒造り。そして、男鹿を世界中の人々が訪れる酒の聖地として活性化する未来。
醸造所併設の「土と風」では、昼はボトル販売のほか酒粕を利用したソフトクリームなど軽食を提供し、オリジナルグッズも販売。夜は秋田や男鹿の食材を中心にした京フレンチベースのコース料理と酒が楽しめる。
DOBUROKU ホップ
ビール造りに使用されるホップを副原料にしたホップどぶろく。ホップの成分が酸化することによって綺麗なピンク色〜紫色に着色する。自然が生み出す色合いも楽しみたい。
稲とリンゴ スパークリング
大人気の「稲とリンゴ」のスパークリングタイプ。「フジ」と「紅の夢」という2種のリンゴを、米と米麹と一緒に発酵することで生まれたシードルとも日本酒とも異なる味わい。
稲とアガベ醸造所 土と風
住所: | 秋田県男鹿市船川港船川新浜町1-21 |
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営業時間: | ショップ11:00~16:00、レストラン19:00~(完全予約制) |
休業日: | 月・火曜日 |
クラフトビールの
自由なカルチャーで日本酒を再編集
【haccoba
-Craft Sake Brewery-】
株式会社haccoba
代表取締役
佐藤 太亮さん
「自由な酒造りこそが発酵文化の源流」と捉え、ジャンルを超えた酒造りを追求しているhaccoba。日本酒の発酵過程でビール原料のホップを加えるという製法は、東北の一部地域に伝わるどぶろく製法「花酛(はなもと)」がベースになっている。伝統的な製法に、現代のクラフトビールの醸造スタイルを取り入れることで、多様な味わいを生み出すことに挑戦している。
さらに、コーラ粕にワインの搾りかすやカカオハスクを掛け合わせたり、花酛をベースに季節のフルーツを一緒に発酵させたり、昆虫食をメインにしたレストラン「ANTCICADA」とコラボしたりと、その発想と創意工夫は無限で、まさに「自由」だ。
こちらも商品を購入できるショップや、ブリューパブを併設しているので、酒蔵を眺めながらhaccobaの酒と料理を味わうのも楽しそうだ。
水を編む -根本有機農園-
ほんの少しの副原料として唐花草のみを加え、地元農家が作る米の味を伝える地酒、「田んぼシリーズ」。ラベルには詩人・菅原敏さんが書き下ろした詩が隠されている。
はなうたホップス
東北に伝わる幻のどぶろく製法 “花酛”(はなもと)と、ビールの製法ドライホップを掛け合わせ、柑橘系の爽やかな香りと苦味、お米の甘みなどさまざまな表情を楽しめる。
haccoba -Craft Sake Brewery-
住所: | 福島県南相馬市小高区田町2-50-6 |
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営業時間: | ショップ10:00~17:00(月曜日定休) |
ブリューパブ17:30~22:30(金・土・日曜日営業/予約制) |
〝街中醸造所〟の自由なスタイルと
ロマンのある酒造り
【LIBROM】
株式会社LIBROM
醸造責任者
穴見 峻平さん
「日本酒文化をもっと身近に」というコンセプトのもと、福岡県天神近くの高砂に〝街中醸造所〟を構え、新しいクラフトサケに挑戦するLIBROM。社名は代表の柳生さんと醸造責任者の穴見さんの好きな言葉である「LIBERTA(自由)」と「ROMANZO(ロマン)」を組み合わせたもの。
彼らが追求する新しいクラフトサケは、「並行複発酵」という複雑な醸造過程を辿る。伝統的な技術は守りつつ、旬のフルーツや茶葉、ミント類などを副原料に加えて日本酒の枠を超えた味わいを表現。また、黄麹だけでなく白麹も使用し、酒の種類に合わせて温度管理を変えるというこだわりも。
併設のPUBでは酒造りの様子を見ることもでき、酒粕を使った料理や季節のフルーツなどとLIBROMの酒とのペアリングも楽しめる。
Verbena
福岡県産のレモンバーベナを日本酒の発酵途中に添加することで、お米由来の自然な甘さとハーブ由来の心地よい香りを引き出した。ミラノ酒チャレンジ2023 プラチナ賞受賞酒。
Mint
福岡県産のモヒートミントを使用し、爽やかなミントの香りと米本来の甘さを残しながら酸味を出した、スッキリと飲みやすい味わい。ルクセンブルク酒チャレンジ2022銅賞受賞酒。
LIBROM Craft Sake Brewery
住所: | 福岡県福岡市中央区高砂1-21-27 ボンフル高砂103 |
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営業時間: | 15:00~23:00(土曜日13:00~23:00) |
休業日: | 月曜日 |
「感激できる、多様なおいしさ」
創意工夫する新たなSAKE
【LAGOON BREWERY】
LAGOON BREWERY
合同会社 代表
田中 洋介さん
「日本の自然百選」に選ばれる美しい原風景を残す新潟県北部の福島潟に小さな酒蔵を構えるLAGOON BREWERY。銘柄の「翔空」には、多くの渡り鳥が飛来することでも知られるこの地で醸造するSAKEを世界中に羽ばたかせたい、という想いが込められている。
原料米はCO2排出抑制の観点から地元産のみを使用。さらに、環境保全型農法で育った米を積極的に使用するなど、自然環境にも配慮したSAKE造りを目指す。地元名産品のトマトや、新潟・栃尾地区の山中に自生するクロモジなど、米とともに醸す副原料も地の物にこだわる。
併設されているShop&Cafeではクラフトサケのテイスティングだけでなく、トマト・ソフトクリームや酒粕を使用したスイーツなどを味わうことができ、お酒を飲む人も飲めない人も共に楽しめるのが嬉しい。
翔空 SAKEマルゲリータ Amber
地元産トマトを米とバジルと共に醸したピザ・マルゲリータのようなSAKE。ワインやブランデーのようなニュアンスもあり、澄んだアンバー(琥珀色)が見た目にもきらびやか。
翔空 森のSAKE 〜クロモジどぶろく〜
和ハーブとしてお茶や薬草に使われる「クロモジ」を、米とともにモロミの中で醸したどぶろく。アフターテイストとして、ほんのり感じられるスパイシーさが良いアクセント。
LAGOON BREWERY
住所: | 新潟県新潟市北区前新田乙576-1 |
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営業時間: | 10:00~17:00 |
休業日: | 月曜日(月曜日が祝日の場合は翌日休み) |
若き蔵人たちの才能が花開く、
浅草初のCraft SAKE醸造所
【木花之醸造所】
株式会社ALL WRIGHT
3代目醸造長
木村 柚月さん
浅草初のCraft SAKE醸造所として誕生した木花之醸造所。都内のCraft SAKE醸造所としてはほかにない、麹室を併設し、自ら麹造りを行っている。仕込みは清酒と同様の三段仕込みで、酒造りの工程で重要な麹を自前で造ることで、バリエーション豊かな味わいのどぶろくを醸造することが可能になるという。
また、ここは酒造りを目指す若者たちの学びと修業の場でもある。酒造りや経営ノウハウなどを学び、羽ばたいていく若い醸造家たちが日本酒業界を盛り上げ、もっと面白くしてくれるだろうと期待しており、初代・2代目を務めた醸造長たちが、今では自身の醸造所をオープンしている。併設する店舗では、自社の商品をはじめ、全国の地酒やクラフトビールとともに美味しい料理を提供。若き蔵人たちの熱い想いが醸したクラフトサケが味わえる。
ハナグモリ〜THE酸
焼酎で使用される白麹を使用することで、白麹由来のクエン酸の鮮烈な酸味を活かしたドライでシャープな味わいのどぶろく。炭酸水や炭酸のジュースで割っても美味しい。
HAZY SAKE
ビール酵母を使用した濁酒。ホップとエール酵母、清酒酵母の共発酵により、グラスからトロピカルフルーツを思わせる香りが立ち上がり、奥底にメロンのような香りも感じられる。
木花之醸造所
ALL (W)RIGHT -sake place-
住所: | 東京都台東区駒形2-5-5 B1 |
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営業時間: | 17:00~22:30(土曜日・日・祝日15:00~22:00) |
「醗酵でつなぐ、しあわせ」
発酵愛を表現した「完熟糀のどぶろく」
【ハッピー太郎醸造所】
ハッピー太郎醸造所
代表
池島 幸太郎さん
醸造家、〝発酵アドバイザー〟として活動する池島幸太郎さんが、「顔の見える発酵食品で、つながりを取り戻そう」と2017年に滋賀県彦根市にオープンしたハッピー太郎醸造所。糀造りを農作物の育成と見立てて、「いかに完熟の糀を育てるか」というポイントを大切にして丁寧な糀造りを行っており、味噌や鮒鮓などの高品質な発酵食品も手掛け、全国に多くのファンを持つ。2021年に滋賀県長浜市の商業文化施設「湖のスコーレ」に入居し、本格的にどぶろくの醸造をスタート。醸造所の地下水を大元として、糀屋ならではの「完熟糀」を使用し、日本茶やハーブティー、薬草を掛け合わせた様々なフレーバーのどぶろくを生み出している。
滋賀県米原市に自宅アトリエを構える切り絵作家の早川鉄兵さんが手掛ける洗練されたラベルデザインも印象的だ。
something happy フレッシュハーブティー
広島県三原市の梶谷農園さんお任せ「季節のスゴイフレッシュハーブミックス」をもろみに漬け込み、ともに醸すことで、清々しくもまろやかな香りと爽やかな余韻を生み出している。
ハッピーどぶろく 湖北はみ出し米
虫がついて変色したり、割れていたりする個性的な「はみ出し米」を、発酵を通すことで、美味しく、愛おしいお酒に変える。世の愛すべき“はみ出し者達”に乾杯しよう!