トップバトン

トップバトン VOL.3

トラスコ中山株式会社 代表取締役社長 中山哲也氏

ISSUED | 2019.01

人や社会のお役に立ててこそ、事業であり、企業である

リレー形式で経営者をつなぐ「TOP BATON」。日建設計代表取締役社長亀井忠夫氏からバトンを受け取ったのはトラスコ中山の中山哲也氏。人や社会のお役に立つという志が企業の健全な成長には必要だという、独自の発想と手法で企業を育てる経営哲学とは。

PROFILE

中山哲也

1958年生まれ。81年近畿大学商経学部経営学科卒業。同年、中山機工株式会社(現トラスコ中山株式会社)に入社。倉庫業務、配送業務、管理業務、上場準備業務などを経て、1987年に常務取締役、1991年に代表取締役専務取締役を歴任し、1994年より現職。視覚障害者を支援する公益財団法人中山視覚障害者福祉財団の理事長を務めるなど、社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。

 

暗黒企業からグレー企業、そしてホワイト企業へ

 トラスコ中山株式会社の前身である中山機工商会は、中山氏が生まれた翌年の1959年に創業された。鉗子分娩によって右目の視力を失った中山氏の将来のために、父中山注次氏が作った会社だという。と聞いて、さぞ親子の絆が強く、受け継がれた経営理念があるのだろうと思いきや、経営スタイルは全く正反対というから興味深い。

「私の経営判断の基準は『取捨善択(ぜんたく)』であるのに対して、父は『取捨銭択(ぜにたく)』の人でした。何をやるにも、まずは『いくらかかんねん』と(笑)。私も経営者たるもの、金にシビアでなければいけないと思っていた時期もあったのですが、父が損得勘定で決めたものはすべて失敗してしまったのです。これは私にとって幸運でした。 親父が授けてくれたものの中で一番ためになったのは、この反面教師としての教えでしょうね」。

 中山氏が社長に就任したのは35歳のとき。「機械工具の卸売企業としては最後発企業だったので、債権管理はお客様の言いなりでお金がない。しかも、父は『経営者は社員を安く使えるほど優秀』という考え方でしたから、安月給に見合う社員しかいないわけです。そんな最悪の条件の中で、どうしたら這い上がれるのかを必死で考える毎日でした。当時は今でいうブラック企業。むしろ暗黒企業でしたね(笑)。少しずつ経営改善していって、暗黒から漆黒、ブラック、グレーになって、今では経済産業省が管轄する『ホワイト500』の認定がいただけるようになりました」。

2018年10月に稼働した同社最大の物流センター「プラネット埼玉」(埼玉県幸手市)。「目指すは日本最大の工具箱」をコンセプトに、50万アイテムの在庫保有が可能。

業界の構図を変えた独創的なチャレンジ

 アイデアマンの中山氏は独創的な経営哲学を次々と生み出している。その代表的なものが「中山式在庫の方程式」だろう。「在庫は成長のエネルギーになる」という考えのもと、一般的に経営効率を図るために重視される

「在庫回転率」にはこだわらず、注文のうちどれだけ在庫から出荷できたかという「在庫ヒット率」を高めることに注力し、在庫を拡充してきた。現時点で保有する在庫は37万アイテムにのぼり、ヒット率は89・9%に達している。

「在庫回転率にこだわっても、お客様には何のメリットもありません。それよりも、品揃えのいい店の方がいいですよね。在庫を多く置くことで、商品を即納でき、お客様の利便性向上につながります。また、商品を取り寄せる手間が省けたことで、社員の残業も減りました」。

「中山式在庫の方程式」は、その他にもいろいろな変化をもたらした。「在庫をたくさん持ったら、ライバル関係にある同じメーカー代理店からも注文が入るようになったのです。代理店は、在庫のない商品の注文が入ると、メーカーに発注します。しかしメーカーは出荷ロットが決まっていたり、運賃がかかったり、いろいろと条件があることが多いです。それだったら、1個ずつ買えて、運賃も無料で、納期も早いトラスコ中山から買おうということになったのだと思います。これはライバルがパートナーになった画期的な出来事でした」。

成功と成長のために経営者がすべきこと

「誰もが思いつき、誰もが進む方向に『成功』の文字はありません。社内で多数派の意見は、他社でも同じ。進むべき道は経営者が示さなければなりません。そのために私は人の10倍物事を考えています。常にメモ用紙を携帯し、枕元にも置いています。時々、夢で考えたのか、現実で考えたのかわからなくなるくらいです(笑)。金曜日に会議があると、週末にもっと良いアイデアが浮かんで、決定事項を覆すこともしばしば。常に継続して考えていると、5歩先、10歩先が少しずつ見えてきます」。
 社員名簿や社屋の設計、会社案内などにも中山氏のアイデアが散りばめられている。

「以前、駅からここ東京本社までのアクセス時間が、実質5分のところ10分と記載されていたので、担当者に聞いてみると、『道に迷うかもしれないので』とか言いよるんですよ。会社訪問に来てくれる学生からしたら、5分と10分ではその違いは大きいでしょう。5分なら『行ってみよう』と思っても、10分だと『遠い』と感じてしまうかもしれない。人材不足の時代を生きてきたので、こんな一見些細に思えるようなことも見過ごせません。私は暗黒の中から這い出すために、頭が相当鍛えられましたが、ホワイト企業、ホワイト社会の今、これからの若い社員はそうはいきませんから少し心配です。彼らに『這い上がれ』と言ってもピンとこないと思うので、事例を見付けては伝え考えるヒントを与えています」。

自ら呼び寄せたターニングポイント

「企業のターニングポイントは、先を見越した上でぐいっとこちらに引き寄せる必要があります」。中山氏が社長として最初に引き寄せたターニングポイントは2002年から2005年にかけておこなった手形取引の全廃だ。この英断によってキャッシュフローが改善し、成長スピードが加速。それから15年が経過した現在、中山氏は再び大きなターニングポイントを引き寄せているという。

「ただひたすら、お客様のために問屋としてできることを追求していたら、ネット社会が到来して、ネット通販企業様からも声がかかるようになりました。お客様は我々とつながることで37万アイテムが即日出荷できるようになるのです。この変化に対応し、従来のお客様に加えて、ネットユーザー様にも直接商品を出荷するために、物流システムの強化を始めています。これまで無借金経営を続けてきましたが、昨年度から合計250億円を借り入れ、積極的な設備投資を行っています。もっと早く、もっとお客様のためにという思いを形にし、社会に必要とされる会社であり続けるためにはどうしても必要な投資です」。

 先を見通す目は鋭いが、人や社会を見る目は優しい。このターニングポイントが完了する頃、同社はもちろん、業界や社会にもきっと、「善」なる変化がもたらされていることだろう。

OUR WORD

取捨善択
――中山哲也

物事を決断するときは「善」であるかどうかを基準に判断しています。損か得かで判断する「取捨銭択(ぜにたく)」では、結果的に凶につながることが多いのです。「取捨善択(ぜんたく)」の判断を行えば、間違った方向に進むことはないと信じています。

 

日建設計

「がんばれ!! 日本のモノづくり」を企業メッセージに、「プロツール」の専門商社として、業界最大の在庫と業界最高の利便性を追求し、ネット時代の流通にもいち早く対応。プロツールサプライヤーとして業界をけん引している。社名の「TRUSCO(トラスコ)」は、「TRUST( 信頼)+COMPANY(企業)=信頼を生む企業」という意味を込めた造語。



END

THIS BATON FROM...


SHARE THIS ARTICLE この記事をシェアする

RELATED ARTICLESこちらの記事もおすすめです

GOURMET BATON 名古屋グルメバトン 記事一覧