TOP TREND EYE 【連載:人生を豊かにするアート】第一回:総額124億円超! ピカソのオークションから読み解く、アートを活用したラスベガスのビジネスモデル

【連載:人生を豊かにするアート】第一回:総額124億円超! ピカソのオークションから読み解く、アートを活用したラスベガスのビジネスモデル

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アートは心を豊かにするだけでなく、人生をも豊かにしてくれる。ここ数年、アート業界は盛り上がりを見せている。家で過ごす時間・空間に彩りを与える大切な要素としてだけでなく、価値ある資産として保有したいと考える人も増えてきた。しかしまだまだ、「アートの楽しみ方が分からない」、「購入してみたいが敷居が高い」などと敬遠する人も少なくないのでは。そこで、アートにもっと親しんでいただくために、気軽に読めるアート業界のトレンドやニュースを連載形式でご紹介したい。ぜひご一読を。

富裕層が集まるラスベガスで、ピカソのオークションが開催

富裕層が集まるラスベガスで、ピカソのオークションが開催

トップ画像:ラスベガスで開催された「Picasso: Masterworks from the MGM Resorts Fine Art Collection」のオークション中のサザビーズ会長兼オークショニア、 オリバー・バーカー氏 画像引用:https://news.artnet.com/ 写真上:オークションの様子 画像引用:https://www.artnews.com/

世界中の富裕層が集まる都市・ラスベガスで、2021年10月23日に、パブロ・ピカソの作品だけ11点を集めたオークションが開催された。このオークションは、ピカソの140回目の誕生日(10月25日)に合わせ、統合型リゾートとして有名な「MGMリゾーツ」で開催。サザビーズがニューヨーク以外の北米で開催した、初めてのイブニングセールだ。「MGMリゾーツ」が所有していたピカソ作品11点が競売にかけられ、すべての作品が落札される「ホワイトグローブセール」となり、その売り上げは総額124億円以上 (1億900万ドル)だった。
ラスベガスと言えばまず「カジノ」を連想する人も多いはず。そのカジノがなぜこのように大量のアート作品を保有し、「MGMリゾーツ」はなぜこのタイミングで、これらのピカソの作品を売却したのだろうか? (記事中のレートは1USD = 113.84円で換算。落札価格は手数料込み。)

「ギャンブル」から「体験」へとシフトするラスベガス

今回のオークションについて、イギリスの経済誌「フィナンシャル・タイムズ 」は、「ピカソのオークションによって、ラスベガスが “ギャンブル” から “体験” にシフトしていることがわかる」と報じている。
これらの作品は、もともとはカジノ王 スティーブ・ウィン率いる「ミラージュリゾート」が所有していたものだ。「ミラージュリゾート」は、この地で何十年も続いてきたカジノの方式とは一線を画するリゾートを、1998年に開業。このリゾートはイタリアをテーマにしており、高級レストランや高級小売店などを設置するなど利用者がギャンブル以外の活動に大金を費やす機会を作り出した。そして、そのホテル中のフレンチレストラン「Picasso」には、パブロ・ピカソの作品群が展示された。

富裕層が集まるラスベガスで、ピカソのオークションが開催

レストラン「ピカソ」の展示風景 画像引用:https://news.artnet.com/

ラスベガスはもともと”ギャンブル”や”マフィア”といったイメージが強く、安い食事や部屋を使ってギャンブラーたちを引きつけ、クリーンなイメージが少なかった。しかし、彫刻や絵画などの芸術作品をカジノ内に散りばめたり、エルメスなどの高級小売店を併設したりすることで、ラグジュアリーな雰囲気を創出。かつての「エンターテインメントの街」のイメージを一変させたのだ。
2000年に「ミラージュリゾート」は「MGMリゾーツ」に買収されるが、それから20年以上が経過した今でも、もともとミラージュの所有していたホテルではスティーブ・ウィン氏の方式が踏襲されており、カジノから歩いてすぐの場所にファインアートギャラリーがある。

富裕層が集まるラスベガスで、ピカソのオークションが開催

「ミラージュリゾート」によってつくられた「ベラージオホテル」
画像引用:https://www.tripadvisor.com/

マカオやシンガポールなど、統合型リゾートビジネスで成功している他のエリアでは、その収益の半分以上はカジノから得ているのに対し、ラスベガスはカジノの比率は半分以下。とりわけ「MGMリゾーツ」ではカジノによる収益は全体の約30%程度であり、もはやギャンブルを主体とした企業ではないという。同社のアート作品のポートフォリオは約900点にのぼる。「MGMリゾーツ」のチーフ・ホスピタリティ・オフィサーであるアリ・カストラティは「アートの予算は、体験全体の予算の一部です。何か新しいものをデザインしようとするとき、アートはその決定の中心となります」と述べている。
20年かけて”ギャンブル”から”体験”へとシフトしていったラスベガス。今、その”体験”の目玉のひとつとしてアートがあるようだ。

富裕層が集まるラスベガスで、ピカソのオークションが開催

ラスべガスのMGMでの「Picasso: Masterworks」展 展示風景 
画像引用:https://news.artnet.com/

アートのポートフォリオに求められる多様性

MGMリゾーツがピカソの作品群を売却した理由について、サザビーズは声明でこう述べている。「MGMリゾーツがパブリックアートのポートフォリオを再構築し、ダイバーシティ&インクルージョンへの注力を深めていることを受けたものである」
例えば、2016年にMGMリゾーツが開業した「MGMナショナル・ハーバー」では、美術館以外ではワシントンDC地域で最大のパブリックアートコレクションを所有しており、なかでもアフリカ系アメリカ人アーティストによるアートを多く収蔵している。それは、その地域に大きな黒人コミュニティがあることを反映したものだ。
MGMリゾーツは、アートのポートフォリオに多様性を求める傾向は今後も続くと述べており、ピカソのオークションでの収益の一部は、女性、有色人種、LGBTQコミュニティのメンバーなど、これまであまり注目されてこなかったアーティストの作品を新たに購入するために使われるそうだ。

アートのポートフォリオに求められる多様性

オークションに参加したサザビーズのグレゴワール・ビロー会長 
画像引用:https://news.artnet.com/

同社のチーフ・ホスピタリティ・オフィサーであるアリ・カストラティは、声明の中で、リゾートは「アート・コミュニティにおける多様な視点を紹介するための素晴らしいプラットフォームとなり得る」とし、「私たちは、既存のポートフォリオの幅広さを維持しつつ、代表権のないコミュニティのアーティストの声をより大きく伝える、より包括的なコレクションの制作に取り組んでいます」と述べている。
一方、MGMは今回売却した作品以外にもピカソ作品を所有しており、それらは引き続きレストランで展示されるという。マスターピースを手堅く残しつつも、値上がりした作品の一部を売却することで得た収益で新しい作品の購入も進める姿勢から、アートを通じた“体験”をより豊かなものにしていこうとする意識が伺える。

アートのポートフォリオに求められる多様性

レストラン「ピカソ」の展示風景  
画像引用:https://edition.cnn.com/

今回のオークションで注目された落札作品

最後に、今回の注目作品を見てみよう。
落札金額が圧倒的に高額だったのが、1938年に画家のミューズであったマリー=テレーズ・ウォルターを描いた鮮やかな肖像画 ≪Femme au béret rouge-orange≫ だ。長時間の入札合戦の末、約46.1億円 (4,050万ドル) で落札された。30年以上前のオークションでは88万ドルで落札された作品で、その10年後にウィンが購入したものだが、30年で50倍近い値上がりを見せたことになる。

今回のオークションで注目された落札作品

≪Feme au béret rouge-orange≫ / パブロ・ピカソ
画像引用: https://www.sothebys.com/

今回のオークションのもうひとつの目玉となったのは、高さ約2メートルの躍動感あふれる肖像画 ≪Homme et Enfant≫ 。後期のピカソ作品であり、こちらは約27.8億円 (2,440万ドル) で落札された。

今回のオークションで注目された落札作品

≪Hommet Enfant≫ / パブロ・ピカソ
画像引用:https://www.sothebys.com/

また、この日に落札者が決定するまでに最も長い時間のかかった作品が、陶器に描かれた小さな作品 ≪Le Dejeuner sur l’herbe≫だ。約2.4億円 (210万ドル) で落札され、予想最高落札額50万ドルの4倍以上の価格で競り落とされた。マネの同名の作品からインスピレーションを得た、黄色と青の色調で描かれた4人の裸体像の作品だ。

富裕層が集まるラスベガスで、ピカソのオークションが開催

≪Le Deuner sur l’herbe≫ / パブロ・ピカソ
画像引用:https://www.sothebys.com/

オークションハウスのステージとして改装されたホテル「ベラージオ」は、着席のディナーゲストとして参加したVIPで満席となった。ニューヨークで開催された大規模なオークションよりも、より親密でリラックスした雰囲気の中で行われた。
企業の貴重なコレクションを売却することは、大手オークションハウスでは目新しいことではないが、今回のようにもともと作品群を展示している空間を会場としてオークションを開催することは非常に珍しいことだという。サザビーズの専門家は、イブニングセールをオーダーメイドの「イベント」に変えるという今回の手法は、オークションハウスとホテルの双方にとって「お互いにメリットがある」とのことだと、アメリカの美術誌「ARTnews」に話している。アートオークションも新たな ”体験” 型のイベントとして取り入れるラスベガスの新たな取り組みは、業界に新たな風を吹き込んでくれそうだ。

富裕層が集まるラスベガスで、ピカソのオークションが開催

オークションの様子 画像引用:https://www.artnews.com/

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富裕層が集まるラスベガスで、ピカソのオークションが開催

参考:Picasso auction reveals Vegas shift from gambling to ‘experience’(FINANCIAL TIMES) Sotheby’s Is Partnering With MGM Resorts for a Mega $100 Million Picasso Auction in Las Vegas (artnet news) Former Casino Boss Steve Wynn’s Picasso Collection Fetched $109 Million in a Special Sotheby’s Event in Las Vegas (artnet news) Picasso Auction at MGM Casino Brings in More Than $100 M. (ARTnews)
ラスベガス、マカオ、シンガポール。カジノ主要都市は、それぞれ収益モデルが違う (ダイヤモンド・オンライン) Picasso: Masterworks from the MGM Resorts Fine Art Collection (Sotheby’s)

元記事:NEW ART STYLE (https://media.and-art.jp/art-market/mgm_picasso/)
文:AFFLUENT WEB編集部

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