TOP MAGAZINE特集 懐かしいアナログサウンドと珈琲の香り 音楽喫茶へようこそ

懐かしいアナログサウンドと珈琲の香り
音楽喫茶へようこそ

発行: 最終更新日:

ミロンガ・ヌォーバ

大規模開発により目まぐるしく発展する東京。日々変化し続ける大都市だから、時に昭和の時代から変わらない空間や文化に宿る価値が恋しくなる。今回紹介する音楽喫茶は、そんな時に打って付けの昭和レトロ感を満喫できる場所のひとつだ。店内に入れば、こだわりの音響機器で鳴らされるアナログサウンドが、会話を遮るように時に優雅に、時にスリリングに響きわたる。そこは香ばしい珈琲の香りと音楽だけの異空間。ようこそ、音楽喫茶へ。

Edit&Word_effect. Photographs_HIDE NOGATA.

100年近い時を刻む音楽喫茶で郷愁に浸る

渋谷
名曲喫茶ライオン

店内に足を踏み入れると目に飛び込んでくる、大型スピーカー。

店内に足を踏み入れると目に飛び込んでくる、大型スピーカー。

かつて渋谷の中心だった商店街「百軒店」に店を構えるこちらは、昭和元年創業で、都内最古の音楽喫茶といわれている。所蔵している5000枚以上のクラシックレコードの中には、戦後まもなくアメリカの進駐軍が払い下げた希少価値の高いものもあり、ファン垂涎のコレクションが揃っている。店の外装や内装、柱の彫刻に至るまですべてのデザインを初代店主が手がけており、レトロな洋風建築は、訪れた人をノスタルジックな気分へと誘う。

店内で目を引くのが、約2mの大型スピーカーだ。戦争によって店が全焼してしまったため、以前から通っていた常連と初代が二人三脚で、スピーカーを含む音響システムを再構築した。その際、当時は同じ音が左右のスピーカーから流れるモノラル録音のレコードが主流だったため、右のスピーカーを大きくすることで、低音部をより響かせコンサートホールさながらの立体感を実現したのだ。少しでもいい設備で音楽を聴いてほしいという初代の思いは音に乗り、100年近い時を越えてなお聴く者の心を揺さぶる。

ジャンル
クラシック
音源所蔵枚数
レコード5000枚以上、CD5000枚以上
こだわりの設備
DENON DP-3000(レコードプレーヤー)
禁止事項
撮影、大きな声での会話、電話での通話
  • 2階の客席は全てスピーカーに向けて配置されている。

  • レコードプレーヤーが納められているのは、ラジオが内蔵された家具調のステレオで、50年物のDENON製のプレーヤーを愛用。

  • メニューはドリンクのみでクリームソーダ820円(税込)のほか、ネルドリップ式のコーヒー650円(税込)も人気。

  • 名曲喫茶ライオン
  • 名曲喫茶ライオン

    住所: 東京都渋谷区道玄坂2-19-13
    交通: 東京メトロ渋谷駅地下通路 1番口より徒歩約3分
    電話番号: 03-3461-6858
    営業時間: 13:00~20:00
    休業日: 無休(正月・夏休みあり)

至極のプレイリストが生む“ 流れ”に耳を委ねる

四谷
ジャズ喫茶いーぐる

徹底して「音の響き」にこだわった店内。どの席で聞くかを選ぶのも楽しい。

徹底して「音の響き」にこだわった店内。どの席で聞くかを選ぶのも楽しい。

四谷の大通り沿いから地下へ降りると現れる、隠れ家のようなジャズ喫茶。店主・後藤雅洋さんが昭和42年にオープンした老舗だ。「20歳の頃、自前で購入した200枚と友人に借りた200枚、そしてジャズへの憧れだけでオープンした店です」と後藤さんは語る。それから毎月10枚以上の新譜を仕入れ、今や所蔵するレコードは約4000枚、CDは約8000枚にものぼる。店内でかかる音楽はすべて後藤さんが作ったプレイリストによるもの。「いいジャズ、最高のジャズばかりを選ぶのではなく大切にしているのは“流れ”。およそ2時間を、最大限に楽しんでもらうための構成を重視しています」。その心地よいセレクトは、そのまま有線放送にも提供されるほどだ。もちろん音響へのこだわりも抜かりがない。例えば、音が反響しすぎる音響障害を防ぐために段差を多く設置。天井には傾斜と吸音材を備え、どの席でも同一に音が聴こえるよう音響機器を細やかにセッティングする。その熱量を体感するために、今日も多くのジャズファンが地下への階段を降りていく。

ジャンル
ジャズ
音源所蔵枚数
レコード約4000枚、CD約8000枚
こだわりの設備
JBL 4344 MarkⅡ(スピーカー)
禁止事項
イヤホン、私語(18時まで)
  • アナログプレーヤーはヤマハGT-2000、CDプレーヤーはアキュフェーズDP-570を使用。

  • レコードの選定基準を「いい音楽」と言い切る後藤さん。長年の研究の末、たどり着いた境地だ。

  • チーズケーキ480円(税込)は後藤さんの奥様による手作り。優しいチーズ感と口当たりの良さが魅力だ。

  • ジャズ喫茶いーぐる
  • ジャズ喫茶いーぐる

    住所: 東京都新宿区四谷1-8 ホリナカビルB1F
    交通: JR四ッ谷駅から徒歩約3分
    電話番号: 03-3357-9857
    営業時間: 平日11:30~23:20、土曜日12:00~23:20
    休業日: 日・祝日

タンゴに惹かれし者が集う、都内唯一の名喫茶

神保町
ミロンガ・ヌォーバ

店内に飾られたレリーフは、前オーナーが好んだ彫刻家昆野 恆(こんの ひさし)さんの作品。

店内に飾られたレリーフは、前オーナーが好んだ彫刻家昆野 恆(こんの ひさし)さんの作品。

古書の街、神保町に店を構えるミロンガ・ヌォーバ。昭和28年、現オーナーのお父様がシャンソン喫茶ラドリオを営むなか、2店目の音楽喫茶として開業させたタンゴ喫茶だ。今年2月に当時の場所から移転したが、壁のレンガや木を活かした空間は温かさで満ちており、緩やかな時間の流れを感じさせてくれる。開業当時は都内にありふれていたタンゴ喫茶だが、現存するのはこちらだけという。そのため全国のタンゴ愛好家が足繁く訪れる、いわばタンゴの聖地的空間となっている。そんな耳の肥えた客から音源を頂くこともしばしばで、現在所蔵レコードは700枚にものぼる。古典的なタンゴを軸にコレクションされており、曲のリクエストも可能。棚に置かれたアルバムからぜひ選曲してみてほしい。また、機材に関しても客と相談することが多く、現在使用している数あるアンプのうちのひとつも、常連客に選んでもらったのだそう。過去には機材の修理まで行った方もいるという。店と客が共に空間を作りあげていく、まさにタンゴへの愛情が紡ぐ音楽喫茶である。

ジャンル
タンゴ
音源所蔵枚数
レコード700枚以上、CD200枚以上
こだわりの設備
altec(スピーカー)
禁止事項
動画撮影、スタッフや他のお客様が映り込む写真撮影
  • タンゴの花形楽器バンドネオンが店のシンボルとして飾られている。現在は輸入できない本場アルゼンチンの珍品。

  • 棚にはSP版・LP版レコードが。開業当初はオープンリールを主に使用していたという。

  • ライオンスタウト1,000円(税込)は店長一押しのスリランカ産黒ビール。

  • ミロンガ・ヌォーバ
  • ミロンガ・ヌォーバ

    住所: 東京都千代田区神田神保町1-3
    交通: 東京メトロ神保町駅より徒歩約2分
    電話番号: 03-3295-1716
    営業時間: 平日11:30~22:30、土曜日・日・祝日11:30~19:00
    休業日: 水曜日

ただただ音楽に向き合う、贅沢な時間

吉祥寺
BAROQUE(バロック)

座席のほとんどが、スピーカーに向かって配置された1人席で、音楽に向き合うことのできる環境が整っている。

座席のほとんどが、スピーカーに向かって配置された1人席で、音楽に向き合うことのできる環境が整っている。

昭和49年に中村数一さんが創業した、クラシック音楽喫茶。現在は、平成3年に他界した数一さんに代わり、妻の幸子さんが店を守っている。約6000枚のレコードはルネサンス期からロマン派までが中心で、近代のものはほとんどない。クラシックを流す音楽喫茶の中でも、異彩を放つ存在だ。数一さんは開業当初、当時の音が少しでも生きるようにと、真空管アンプを手作り。それを2組のスピーカーに接続し、曲にあわせて切り替えるというこだわりぶりだった。

「古い時代の演奏には心に響く何かがある。その音楽にただただ向き合ってほしい」。そんな数一さんの願いが、私語厳禁、電子機器の使用は極力控えるというこの店のルールに表れている。音楽に心を委ねることの豊かさを教えてくれる、この店の存在は貴重だ。

ジャンル
クラシック
音源所蔵枚数
レコード約6000枚
こだわりの設備
旧型真空管アンプ(手作り)
禁止事項
私語、電子機器の使用は極力控える
  • 数一さんが手作りした真空管アンプが現役で、この店の音を守る。

  • 豆から挽き、サイフォンで丁寧に淹れられるブレンドコーヒー800円(税込)が店の名物。

  • BAROQUE(バロック)

    住所: 東京都武蔵野市吉祥寺本町1-31-3 みそのビル2F
    交通: JR吉祥寺駅より徒歩約3分
    電話番号: 0422-21-3001
    営業時間: 12:00~21:00
    休業日: 火~木曜日(祝日除く)

文化人が足繁く通ったジャズ喫茶の名店

赤坂
Volontaire(ボロンテール)

カウンターとテーブル3席のみの店内は、近い距離感も魅力だ。

カウンターとテーブル3席のみの店内は、近い距離感も魅力だ。

昼はジャズ喫茶、夜はジャズバーという形態のボロンテール。店主の坂之上京子さんがバー、弟の聡さんがカフェタイムを担当している。昭和52年に原宿で開業し、平成23年に赤坂に移転。文化人が足繁く通う店として名を馳せ、イラストレーターの故和田誠さんも常連客の一人だった。店内には和田さんが描いたジャズプレーヤーの肖像画が飾られ、店のコースターにも使われている。

所蔵しているレコードは1920~70年代のジャズが中心だが、京子さんが好んでかけるのは、「ジャズの流れが一番豊かだった時代」と語る1950~60年代の名盤。その時代の音が再現できるよう、60年代の機材を使うことにこだわる。会話が自由にできることもこの店の特徴で、朗らかで粋な京子さんとのジャズ談義を楽しみに通うファンも多い。

ジャンル
ジャズ
音源所蔵枚数
レコード約3000枚、CD約500枚
こだわりの設備
1960年代の機材を使うこと
禁止事項
特になし
  • 和田さんがお店のために書き下ろした作品。これは必見。

  • 京子さんが毎年テーマを決めてジャケットを飾る。

  • 聡さん自慢のパストラミビーフサンドイッチはドリンク付き1,600円(税込)、アルコール付き1,700円(税込)。
    ※提供はカフェタイムのみ。ドリンクはコーヒーもしくは紅茶、アルコールはビールもしくはワインから選択可能。

  • Volontaire(ボロンテール)

    住所: 東京都港区赤坂5-1-2赤坂エンゼルビル2F
    交通: 東京メトロ赤坂駅より徒歩約2分
    電話番号: 03-3505-0188
    営業時間: 12:00~19:00(カフェ)、19:00~26:00(バー)
    休業日: 日曜日

※2024年1月9日現在の記事です。詳細はお問い合わせください。

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