「生産者様のワインにさらなる価値を付加するのがソムリエの役割」と語る森さん。寄せられる顧客の期待に応えるためにも、新たな知識の習得は不可欠だと語る。

“この人にサーブしてほしい”とお客様に思われることがソムリエの価値だと思います。

ラグジュアリーホテル「コンラッド東京」でワイン関連のオペレーションを統括する森覚さん。
数々の世界大会で華々しい成績を残し、令和4年には黄綬褒章を受章するなど、日本のワイン界をリードし続けている。そんな森さんの原動力や今後の目標とは。

Photographs_HISHO HAMAGAMI

PROFILE

森 覚

群馬県生まれ。2013年にコンラッド東京にヘッドソムリエとして入社し、ソムリエチームのリーダーとして数々の実績を残す。 2016年にエグゼクティヴ ソムリエに就任。2014年2月より日本ソムリエ協会の常務理事兼技術研究部部長を務め、啓蒙活動や後進育成に取り組む。令和4年に「黄綬褒章」を受章。

世界を相手に戦ってみたい
高揚感を胸にソムリエの道へ

ギャルソンエプロンに身を包み、客の傍らで料理に合わせたワインや飲み物をスマートに提供するソムリエ。洗練、お洒落といったイメージのある職業だが、コンラッド東京のエグゼクティヴ ソムリエとなれば尚更だ。しかしその実、森覚さんは驚くほどストイックな“体育会系”だ。

5歳でサッカーを始め、高校で全国大会出場も経験した森さん。プロサッカー選手になり海外の選手達と切磋琢磨し合う未来を夢見たこともあったが、徐々に自身の限界を知り、教員になるべく準備を進めていた。そんな大学3年時にテレビ番組「情熱大陸」で、ソムリエの石田博さんが初の世界大会に挑戦する場面を見たことが大きな転機となる。

「それまでソムリエという職業すら知りませんでしたが、まず見た目が格好よかったんです。見たこともない格好をして、ワインを口に含んでさっと産地を当てる。マラドーナを見た時と同じくらいの衝撃を受けました。さらに世界大会があると知って、気持ちが一気に湧き立ちました。今からやれば自分もこの分野でいけるんじゃないか、世界で戦えるんじゃないかと思ったんです」

心に火が付いた森さんは翌日、日本ソムリエ協会に電話をしてそのまま入会。就職活動ではソムリエのポジションのみを志望し、ホテル業界の面接を片っ端から受けた。しかし当時はソムリエの地位が今ほどは確立されておらず、届くのは不採用通知ばかり。気付けばその数はおよそ100社に上った。それでも諦めずにアタックし続けた結果、パーク ハイアット 東京から唯一の内定をもらい、ソムリエ人生がスタートした。

ワインの啓蒙活動や後進の育成も積極的に主導

森さんはその後も努力を重ね、A.S.I.世界最優秀ソムリエコンクールに3大会連続で日本代表として出場するなど優秀な成績を収めてきた。さらに現在は世界で270人しか保持者がいないソムリエ資格の最高峰「マスター・ソムリエ（MS）」の取得を目指している。

「ワイン好きの方の間で『ワイン沼にはまる』という表現があるのですが、私の場合は完全に『コンクール沼』ですね（笑）。知識のアップデートが欠かせないソムリエは、一生勉強が必要な職業です。『ここまででいいや』と諦めて上を目指さなくなったらプロフェッショナルとして終わり、と常に意識しています」

自身の目標に向かう一方で、若手ソムリエに奨学金などをサポートする「J.S.A.ソムリエ・スカラシップ」の実施や山梨大学での講義など、後進の育成や啓蒙活動にも励んでいる。これらの功績が高く評価され、令和4年には黄綬褒章を受章した。

「私の中では“ソムリエはこうあるべき”という固定観念はありません。皆様にワインをもっと知って頂く、あるいはソムリエになりたい人を増やすという使命につながる活動を積極的にしていきたいです」

初志貫徹。世界最高峰を目指したあの日から、ずっと上を見続けている森さん。今後、日本のソムリエ界をどう牽引していくのか期待したい。

• 約3000本を揃えるコンラッド東京のワインセラー
• 森さん愛用のソムリエナイフ

第9回全日本最優秀ソムリエコンクールでは、森さんの教え子達が上位を独占した