ベストセラーとなった科学エッセイ『僕には鳥の言葉がわかる』(小学館)で注目を集める鈴木俊貴さん。
シジュウカラの言葉を解き明かし、生き物たちが暮らす豊かな世界を見つめてきた。
大発見につながる研究の極意と、動物言語学が拓く未来について聞いた。
Text_YUKI KATORI. Photographs_TOMOKI HIROKAWA.
PROFILE

鈴木 俊貴(すずきとしたか)
1983年東京都生まれ。日本学術振興会特別研究員SPD、京都大学白眉センター特定助教などを経て、2023年に東京大学先端科学技術研究センター准教授に就任し、「動物言語学分野 鈴木研究室」を立ち上げる。文部科学大臣表彰若手科学者賞、日本生態学会宮地賞、日本動物行動学会賞、Public of The Year 2025など受賞多数。2025年には英国の動物行動研究協会のTinbergen Lecturerに選ばれた。すべての漢字にふりがなが付いた『ふりがな版 僕には鳥の言葉がわかる』(小学館)も発行された。
大発見を生み出す
「誰よりも見る」観察力
子どもの頃の夢は、動物学者になることだった。人間とはまったく異なる姿形をした生き物たちが、この世界をどのように捉えているのか。それを知りたかったという。
2023年、鈴木さんは新たな学問分野「動物言語学」を創設し、東京大学に世界初となる動物言語学の研究室を立ち上げた。人間の価値観や先入観をできる限り排し、生き物たちの視点に立って、言葉を解き明かす。そこから、彼らが何を考え、彼らの生きている世界を理解する。
鈴木さんの研究対象は、東京でも見られる身近な野鳥、シジュウカラだ。言葉があることを突き止め、さらに言葉を組み合わせて文を作ることや、翼をふるわせて「お先にどうぞ」と伝えるジェスチャーを使うことなどを、独創的な実験と観察によって明らかにしてきた。
古代ギリシャ以来、2000年以上にわたり、「言葉を持つのは人間だけ」と考えられてきた。その常識を覆す発見にたどり着けた理由について、鈴木さんはこう語る。
「気になる生き物を見つけたら、まずは、世界中の誰よりも詳しくなるまで観察する。自然の中でひたすら観察していると、さまざまな仮説が浮かんできます。その中から僕が死んだら、この先2000年誰も気づけないと思えるものを研究しています」
研究テーマを探すのではなく、目の前の生き物を誰よりも長く深く見つめる。大発見は、徹底した観察の先に待っているのである。
「カエル人間」を救い出す
動物言語学という挑戦
動物言語学を立ち上げた理由の一つは、シジュウカラにとどまらず、さまざまな動物の言葉へと研究を広げていくためだ。もう一つの理由が、「カエル人間」の救出である。
「シジュウカラの言葉をリスやヤマガラ、メジロなども理解していることを発見したことで、人間を〝井の中の蛙〟と考えるようになりました。動物たちは、種の垣根を越えて情報を共有している。それなのに、人間だけが、その豊かな世界に気づいていない」
「言葉は人間だけのもの」という思い込みにとらわれた〝カエル人間〟を救出し、本来、人間にも備わっているはずの動物の言葉を理解する力を取り戻させるのだ。
「動物言語学という〝枠組み〟を通して、動物の世界を正しく理解すること。それは本当の意味での他者理解につながっていきます。動物への理解が深まれば、僕が想像する以上にいろんなことが起こると思っています」
その実現に向け、鈴木さんはシジュウカラの言葉を研究し、得られた発見を論文や本、講演などを通じて発信している。そして、動物言語学を一つの学問として確立し、次の世代へ引き継ごうとしている。
「僕が知っているこの豊かな世界を知ってほしい。僕がわかるようになったんだから、みんなもわかる」
動物たちへの理解が深まれば、自然との向き合い方も変わり、環境を守ろうとする意識が育まれるのかもしれない。
Memorable Words
多くの人が鳥の言葉に耳を傾ける、
そんな世界は今よりずっと豊かで楽しくなる。
みんなが生き物の言葉がわかるようになって、彼らの世界を正しく理解することができたら、人間は自然とのつながりを取り戻すことができるはず。そうすれば、身近な環境問題の解決方法を思いつくことがあるかもしれない。東京は意外と緑地が多くて、たくさんの鳥が暮らしています。耳を澄ませて鳥の声が聞こえたら、どの鳥が鳴いたのか探してみてください。最初はそれで十分です。
鈴木さんは双眼鏡を通して自然界にいる鳥たちの姿を見ることと、鳥かごの中で観察することには大きな違いがあることを指摘している。鈴木さん自らが撮影したシジュウカラ。
研究のため軽井沢の森に設置しているものと同じ巣箱。ヒナの様子を観察できるよう、屋根が開閉する仕組みになっている。

観察に欠かせない双眼鏡。高校生の頃にお年玉で買った双眼鏡が野鳥と鈴木さんの距離を縮めるきっかけとなった。