TOP Life・Item 日本茶インストラクター ブレケル・オスカル日本茶と過ごす心満ちる時

日本茶インストラクター ブレケル・オスカル
日本茶と過ごす心満ちる時

スウェーデンで一杯の日本茶に魅せられ、日本茶インストラクターとなった
ブレケル・オスカルさん。産地や品種、淹れ方まで知ることで広がる日本茶の奥深さ、
そして世界へその価値を伝える想いを聞いた。日々を豊かにする一服とは。

Text_IKUKO NODA. Photographs_HISHO HAMAGAMI.

PROFILE

ブレケル・オスカル
Oscar Brekell(ブレケル・オスカル)

1985年、スウェーデン・マルメ生まれ。ルンド大学日本語学科を経て岐阜大学に留学。2014年に日本茶インストラクター資格を取得。2015年、静岡県農林技術研究所茶業研究センターで研修を受け、2016年には外国人として初めての日本茶手揉み教師補の資格を取得した。ワークショップやイベントを通じ、日本を含む17ヶ国で日本茶の魅力を発信。2020年に日本茶ブランド「SENCHAISM」を立ち上げた。著書に『僕が恋した日本茶のこと 青い目の日本茶伝道師、オスカル』『ブレケル・オスカルのバイリンガル日本茶BOOK』など多数。

一杯の煎茶から
〝森〟の気配を感じて

ブレケル・オスカルさんは、日本茶の魅力を国内外に伝える「日本茶インストラクター」だ。複数の産地や品種の茶葉を組み合わせる「合組(ごうぐみ)」が主流の日本茶にあって、単一茶園・単一品種の「シングルオリジン」に着目。自身のブランド「SENCHAISM」の展開をはじめ、湯温や抽出時間によって変わる香味の違いを伝える活動を通じ日本茶の奥深さを発信している。

スウェーデン南部のマルメで育ったオスカルさんが、日本茶と出合ったのは高校の授業で日本を学ぶ中。たびたび登場する「茶」に興味を抱いた。日本を感じてみたいと小遣いをはたいて煎茶を購入。紅茶と同じように熱湯で抽出したところ、苦さが際立ち、第一印象は決して良いものではなかった。しかし、偶然、少し冷めたお湯で淹れてみると、爽やかな香りと穏やかな味わいが広がった。その変化に驚いたという。

「まるで、森が湯呑みに入っているような感覚でした。当時は進路に迷い、病気で車椅子生活を送る母の介護にも追われていたような時期。そんな中、煎茶を飲むひとときは、やがて自分を取り戻し、自分自身と向き合う時間になっていきました」

その後、大学を休学して来日。ホームステイをしながら日本茶や茶器に触れ、その奥深さにより惹かれていく。帰国後も情熱は冷めることがなく、日本人の知人から「日本茶インストラクターになれば?」と勧められたことが転機となった。

「ワインにはソムリエが、コーヒーにはバリスタがいる。よし、自分が日本茶を提供するスペシャリストになろうと思いました」

ゼロから日本語を学び、2014年に日本茶インストラクター資格を取得。静岡で日本茶の栽培や製茶に携わりながら研鑽を積んでいった。

知るほど、淹れるほど
日本茶の世界は深くなる

シングルオリジンの煎茶の魅力を、オスカルさんはこう語る。

「ブレンドしたお茶も、ティーバッグも、ペットボトルのお茶も、全部がお茶という大きな生態系の一部です。でも深く好きになると、どんな品種や香りがあるのか知りたくなる。ワイン好きが畑や造り手に惹かれる感覚に近いと思います」

煎茶は湯温や抽出時間を変えれば、旨みや渋み、香りの立ち方も変化する。さまざまな味わいを引き出せる工夫の余地に尽きることのない楽しさがあるという。

効率やスピードが求められ、デジタル機器に囲まれる今だからこそ、急須でお茶を淹れ、香りや味の変化に意識を向ける時間に意味がある。

「お茶を淹れることは、〝人間であること〟を、もう一度感じさせてくれる。現代の言葉なら、マインドフルネスに近いのかもしれません」

日本人には日本茶の魅力を見つめ直すきっかけを、海外の人には日本文化に触れる入口を。産地や品種、淹れ方によって広がる日本茶の価値を、それぞれに届く言葉で伝えていく。オスカルさんは日本茶を通して、日本と世界をつなぐ橋渡し役を担っている。

Memorable Words

日本茶は、一煎、二煎、三煎と味と香りが変わっていく。
それは小さな旅をしているような、豊かな時間なんです。

伝統は、昔と同じことをそのまま繰り返すだけでは守れないと思います。大切なのは、受け継がれてきたものの良さや本質を理解したうえで、今の暮らしに合う形にしたり、今だからできることを加えたりすること。そうすることで、伝統は生きたものとして続いていくのではないでしょうか。お茶の世界も同じです。

  • 静岡の茶畑にて。栽培や製茶に触れることで産地や品種ごとに異なる個性を肌で理解してきた。静岡の茶畑にて。栽培や製茶に触れることで産地や品種ごとに異なる個性を肌で理解してきた。
  • オスカルさんが愛用する常滑焼の急須。名工・磯部輝之氏作オスカルさんが愛用する常滑焼の急須。名工・磯部輝之氏作

11月16日発刊の新著「日本茶とスイーツのペアリング」ではスイーツとのペアリングも提案する。秋におすすめの茶葉品種は「おくゆたか」。落ち葉を思わせる軽やかな香りがあり、干し柿やモンブランとも相性がいいという。

11月16日発刊の新著「日本茶とスイーツのペアリング」ではスイーツとのペアリングも提案する。秋におすすめの茶葉品種は「おくゆたか」。落ち葉を思わせる軽やかな香りがあり、干し柿やモンブランとも相性がいいという。

※2026年11月3日現在の記事です。詳細はお問い合わせください。

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