TOP MAGAZINE特集 サステナブル・ ガストロノミーが描く、これからの美食

サステナブル・ ガストロノミーが描く、これからの美食

美食を知るほどに心惹かれるのは、その一皿の「美味しさ」だけではない。
今、世界が持続可能な社会の実現を目指す中、食の世界でもSDGsの理念とも重なる「サステナブル・ガストロノミー」という考え方が広がっている。

舌で味わうだけではなく、その背景にあるものまで含めて愉しむものへと変化を遂げている「美食」。
今回は、そんな現代における「美食の愉しみ」を深く追求する、都内のガストロノミーの名店を紹介。
食を愉しむ人たちが注目する、これからの美食の価値についてひも解いていく。

Sustainable Gastronomy

サステナブル・ガストロノミーとは?

美食を味わう―― それは人生を豊かにする愉しみの一つだが、今、料理の価値は単なる「美味しさ」だけでは語れなくなっている。近年注目を集める「サステナブル・ガストロノミー」は、まさにその一例。SDGsの理念とも通じる、持続可能なあり方を考える食文化だ。食材そのものの質や産地にとどまらず、生産・流通・調理・消費の過程に至るまで、食に関わるすべてを、持続可能という視点で見つめ直す。そこには、地域の生産者や経済を支える地産地消、豊かな自然や食資源の保全、食材を余すことなく活用するフードロス削減、公正な取引を目指すフェアトレード、さらには土地に根づく食文化や知恵を次世代へ継承していく営みまでもが含まれている。

img
写真提供:nôl

知るほどに深まる。美食の新たな価値

生産者がどんな想いで食材を育てているのか、その食材がどんな土地や自然の中で育まれたのか。料理の美味しさだけではなく、その背景にまで目を向けることで、その一皿に込められた地域の文化、環境、未来への想いが見えてくる。そのような「美味しさの背景」を知り、味わう中で、私たちはこれまで気づかなかった本当の価値や感動に出会うことができる。「サステナブル・ガストロノミー」が目指すのは、決して「何かを我慢する食」ではない。持続可能性という視点を取り入れながらも、食する歓びを諦めることなく、「新たな食の体験」として美食をより深く追求していく。その姿勢こそが、食の未来を考えることにつながり、食事という日常的な行為に新たな歓びと価値をもたらすのだ。

img
写真提供:Nœud. TOKYO

Nœud. TOKYO

ヌー・トーキョー

  • 永田町
  • フレンチ

自然の循環を映す上質な一皿
“オール・サステナブル・フレンチ”

岡山県美作産の本州鹿のロースト、季節の野菜のデクリネゾン
甘酸っぱいシェリービネガーソースを添えた「岡山県美作産の本州鹿のロースト、季節の野菜のデクリネゾン」。ジビエや野菜を“命の恵み”として捉え、旨みを余すことなく一皿に凝縮。

素材はもちろん食器や空間に至るまでサステナブルを追求するフレンチレストラン「Nœud.TOKYO」。シェフが直接生産者に会い、育成環境と手法、生産方針のすべてに共感できた旬の食材のみを仕入れて使用。無農薬で育てられた野菜の根や葉、茎、皮から、自然環境で生育しているジビエや魚の骨、皮、内臓まで余すことなく活かしきる料理には、命への感謝、そして生産者へのリスペクトの想いが表れている。固定観念に囚われず、目の前にある食材をどう活かすかに日々向き合い、調理法をアップデートし続けるシェフの留まることのない探求心が、驚きと感動に満ちた特別な一皿を作り出す。

千葉県九十九里産ハマグリとレタスのガトー仕立て
「千葉県九十九里産ハマグリとレタスのガトー仕立て」は、レタスのほのかな苦みと爽やかな風味に、ハマグリの濃厚な旨みを重ねた一品。
店内
江戸時代の蔵を解体した際に出た土壁の土を再利用した壁や、神社の危険木を使ったカウンター、国産にこだわった食器など、店舗の設えにも環境への配慮がうかがえる。

シェフ 中塚直人さん

シェフ 中塚直人さん

新たな「美味しさ」との出会いが
未来の食を考えるきっかけに

料理人として大切にしているのは、お客様の「美味しさ」への期待に応えること。作り手の考えを押し付けず、純粋に食事を愉しんでもらう中にこそ、伝わるものがあると考えているからです。「こんな食べ方もあるのか」といった驚きや発見が、さまざまな生態系や循環の上に成り立つ、食という営みに目を向けるきっかけになれば嬉しいです。

住所:東京都千代田区平河町2-5-7ヒルクレスト 平河町B1F
TEL:03-6910-0233
営業日時:火~金曜日 18:00~22:30(L.O.19:30) 土曜日 12:00~15:00(L.O.13:00)、18:00~22:30(L.O.19:30) 日・月曜日
◎ランチコース13,200円(税込・サ別)~/ディナーコース13,200円、18,700円(税込・サ別)※ヴィーガン用コースもあり。メニュー内容は時季により変更あり

nôl

ノル

  • 馬喰町
  • フレンチ

作る人と、食べる人。
双方への思いやりが生む、優しく滋味深い味

かぼちゃの花とイノシシ
1年のうち約1カ月しか味わえないかぼちゃの花に、イノシシの肉を詰めて焼き上げた「かぼちゃの花とイノシシ」。花の繊細さの中にイノシシの力強い旨みが際立つ逸品。

目まぐるしく変化する社会において、人と環境に寄り添い、今の時代に適う美味しさを届ける「nôl」。美しく心地よい設えの空間でいただけるのは、「サステナブルだから価値がある料理」ではなく、フレンチの技法をベースにしながらも過度な重さを感じさせない「身体に負担の少ない料理」。バターや生クリーム、油分、塩分を多用する調理法や、特定の高級食材ばかりを偏重する料理とは一線を画し、食べる人の健康や消化に配慮したメニューを提供。そのうえで生産者の生活の維持、地球環境の保全にまで目配りしながら、社会と環境の調和が取れた新しい食のスタンダードを追求している。

アミューズ
これまで食材として意識されてこなかった「どんぐり」に価値を見出したアミューズ。どんぐりを粉末にして仕立てたフランは、卵のなめらかさの中に香ばしさや土を思わせる風味を感じられる、ゲストの意表を突く一品だ。
キッチンスペース
客席とシームレスにつながるキッチンスペース。ゲストとシェフの距離の近さを大切にしている。

シェフ 丹野貴士さん

シェフ 丹野貴士さん

一人ひとりの行動と選択が
生産者、土地、食の未来を守る

生産者が土や水を守りながら大切に育んできた食材が、地域を支える食として循環すること。負荷の少ない労働環境のもと、料理人が生き生きと働き、ゲストに健康的な食事を愉しんでもらうこと。食で結ばれたそんな日々の営みが、人々の生活や自然環境を守り、「食べる歓び」と「未来への責任」が同じ方向を向くことが私の理想です。

住所:東京都中央区日本橋馬喰町2-2-1 DDD HOTEL 1F
TEL:090-7288-0622
営業時間;18:00~22:00(L.O.19:30) 
定休日:月・火曜日
◎ディナーコース18,500円(税込・サ別)~

精進料理 醍醐

しょうじんりょうり だいご

  • 神谷町
  • 日本料理

豊かな自然の恵みに敬意を払い一椀に宿す、精進料理の哲学

吹き寄せ
落ち葉や木の実なども「無駄なく利用する」という日本古来の知恵や工夫、考え方も一緒に盛り込んだ「吹き寄せ」。ちりとりのような形の器に、秋の暮れの情景を表現している。

植物性食材だけで構成される唯一の料理といわれる「精進料理」。食材の持ち味を最大限に活かす技法を研ぎ澄ませることにより、肉や魚に頼らずとも豊かな味わいを生み出す日本伝統の食文化だ。侘び寂びの心を体現しつつ、精進料理の価値を新たな視点から捉え直すことに意識を向ける四代目の野村氏は、アーティチョークやキヌアといった日本人には馴染みの薄い食材も積極的に活用。懐石形式の献立には約50~60種類もの野菜を使い、メニューは3週間に1度、食材の旬に合わせて総入れ替えを行っている。訪れるたびに新鮮な美味しさに出会える、精進料理の新しい食体験に期待して訪れてほしい。

蕎麦
精進料理を代表する食べ物の一つが「蕎麦」。その土地の風土、歴史、そして人々の暮らしに深く根差した文化そのものを感じられる醍醐の「手打ちの蕎麦」は、ぜひ味わいたい逸品だ。
店内
愛宕山の麓に立つ、1950年創業の数寄屋造りの料亭。お部屋から見える美しい日本庭園が目を愉しませ、都会の喧騒を忘れさせてくれる。

シェフ 丹野貴士さん

料理人/四代目 野村祐介さん

命を慈しみ、食材を無駄なく活かし
素材本来の味わいを五感に届ける

植物も命あるものとして、日本古来の「いただく」という心を大切にしています。野菜の端材や皮など、これまで捨てられていた部分も出汁や乾燥、粉末などさまざまな形で無駄なく活用し、手を加えすぎず、素材本来の風味や表情を活かした料理をご提供しています。日本ならではの料理を、五感すべてでお愉しみください。

住所:東京都港区愛宕2-3-1
TEL:03-3431-0811
営業時間:ランチ11:30~ 最終入店13:00 ディナー17:00~ 最終入店20:00 
定休日:年始
◎ランチコース17,800円(税込・サ別)~/ディナーコース26,000円(税込・サ別)~

NARISAWA

ナリサワ

  • 青山一丁目
  • イノベーティブ

「里山文化」から見出す次世代の美食
先人の知恵を現代の食文化と融合

椿と麹
麹菌の秘密をひも解くデザート「椿と麹」。米麹のペーストをベースに、椿の花びらのジュレとクリスピーな葉脈、酒粕のソースを添え、最後に椿の灰を振りかけて仕上げている。

「NARISAWA」が追求するのは、森と海に囲まれた日本の里山にある豊かな食文化と先人たちの知恵を、現代の料理として表現する「イノベーティブ里山キュイジーヌ」。“自分たちに与えられた土地から生活に必要なものを必要な分だけいただく”という里山文化に敬意を払い、成澤シェフ自身が感じた里山を皿の上で再現する料理は、厨房を出て、里山とそこで暮らす人々に学ぶことから始まる。土地に根差した食材、伝承されてきた保存方法、発酵の知恵を持ち帰り、心と体に有益な美食へと昇華させた料理。それは革新的でいてどこか懐かしく、旅をしているような非日常な高揚感をもたらしてくれる。

五穀豊穣
日本の発酵文化と米をテーマにした「五穀豊穣」。酒粕に漬け込み、炭火で香ばしく焼き上げた鰆を、米麹を発酵させたソースとポップライスとともに味わう一皿。移り変わる季節を感じてもらえるよう、同店ではその日のおまかせコースのみを提供。
店内
シックでモダンな店内。オープンキッチンから漂う香りや音に期待が高まる。

シェフ 成澤由浩さん

シェフ 成澤由浩さん

「美味しさ」こそサステナブルの原点
日本の食や環境に興味を持つきっかけに

自然を守ることは、料理を作り続けるための環境の維持につながり、生産者の営みや土地の文化を知ることは、一皿の味わいをより印象深いものにしてくれます。美味しさとサステナビリティは別々の存在ではなく、根本でつながっているもの。美味しく食べることをシンプルに愉しみながら、その背景にもぜひ興味を持ってみてください。

住所:東京都港区南青山2-6-15
TEL:03-5785-0799
営業時間:ランチ12:00~14:30(CLOSE) ディナー17:30~20:00(CLOSE) 
定休日:日・月曜日
◎おまかせコース68,000円(税込・サ別)

茶禅華

さぜんか

  • 南麻布
  • 中国料理

素材の「天性」を尊重し、無駄なく食す
日本と中国の食文化を一つの料理に

雲白肉(ウンパイロウ)
やまと豚のバラ肉と茄子を重ね蒸し上げた「雲白肉(ウンパイロウ)」。素材に合わせて水分調整や熟成を行うことで旨みを最大限に引き出し、過度に手を加えなくても極上の味わいに。

中国を旅する中でその土地の恵みを最大限に活かした名菜に感銘を受け、素材の「天性」、あるがままの味わいを日本の地において表現したいと探究を続ける川田シェフ。日本の四季折々の食材と、巧みな調理・調味により「素材の持ち味を活かしきる」中国料理の本質を掛け合わせた先に生まれるのは、中国料理の大胆な「旨さ」と日本料理の滋味深い「美味しさ」の双方を引き出した逸品。日本らしいおもてなしの心が宿る「ティーペアリング」は、中国茶、台湾茶、日本茶を季節や料理に合わせてさまざまな温度帯で提供。お酒とお茶の「ミックスペアリング」も人気だ。そんな唯一無二の美食体験は、食通の心を掴んで離さない。

干し鮑
鶏・豚肉・金華ハムとともに合計24時間炊き上げて作る岩手県吉浜産の「干し鮑」。炊いたスープを鶏ひき肉で澄ませ、微量の紹興酒と中国醤油を加えたソースが味の決め手。
店内
元大使公邸だった一軒家の洋館を改装した、深い落ち着きを感じさせるクラシカルな店内。美しく並んだ皿や茶器が気品を添える。

シェフ 成澤由浩さん

シェフ 川田智也さん

素材よりも「素材」らしく
美味しさの頂点へ引き上げる料理

命あるものをいただくからこそ、素材本来の味を殺すことなく、むしろ素材よりも「素材」らしくなるように仕立て、その命がお皿の上で新たに生まれ変わったような料理を提供することを日々心がけています。自然の恵みに人の知恵や技術を重ね、新たな味わいを生み出す姿勢こそが、茶禅華が考える「料理」の本質です。

住所:東京都港区南麻布4-7-5
TEL:050-3188-8819(予約専用)
営業時間:16:00~最終入店19:30 
定休日:不定休
◎ディナーコース55,000円(税込・サ別)~

※2026年10月6日現在の記事です。詳細はお問い合わせください。

others