TOP Life・Item さっぽろ人形浄瑠璃あしり座代表 矢吹英孝伝統芸能を未来へつなぐ

さっぽろ人形浄瑠璃あしり座代表 矢吹英孝
伝統芸能を未来へつなぐ

北海道に人形浄瑠璃を根付かせる。
さっぽろ人形浄瑠璃あしり座代表の矢吹英孝さんは、そんな挑戦を30年以上続けている。
ゼロから市民とともに伝統芸能を育て、次世代につなげる、その奮闘ぶりに迫った。

Text_SACHIE NAKADE. Photographs_YUSUKE WATANUKI

PROFILE

矢吹英孝
矢吹 英孝(やぶき ひでたか)

1967年、福島県生まれ。北海道教育大学函館分校(当時)で幼児教育を学び、児童文化研究会で人形劇に親しむ。中学校教員を経て公益財団法人さっぽろ青少年女性活動協会に入社。札幌市こども人形劇場こぐま座や札幌市こどもの劇場やまびこ座などで、子どもたちの創造活動と地域文化の発展に携わる。現在は両劇場の芸術監督と、一般社団法人アートブリッジコミュニティの代表理事を兼任。あしり座の次回公演は2027年2月20、21日に札幌市教育文化会館で。最新情報はInstagram(@ashiriza_sapporo)やX(@since1995za)で発信中。

「難しいけれど面白い」
その思いが活動の支えに

人形浄瑠璃は、太夫による語りと三味線の音色に合わせて人形を操る、日本を代表する伝統芸能の一つだ。人形は高さ100~150センチ、重さが10キロ近いものもあり、原則3人で操作する。頭と右手を動かす「主遣い」を中心に息を合わせ、人間さながらの豊かな感情を表現する。一人前の人形遣いになるには、長い年月にわたる鍛錬が必要とされる。

1994年、公益財団法人さっぽろ青少年女性活動協会で働いていた矢吹英孝さんは、札幌市こどもの劇場やまびこ座主催の人形浄瑠璃講習会をきっかけに、その世界へ足を踏み入れた。

「人形浄瑠璃はテレビで数回見たことがあるようなレベル。最初は、大学時代から続けている人形劇の勉強になるかも、という軽い気持ちでした」

当時、札幌には人形浄瑠璃を演じる土壌がなく、指導者もいなかった。そこで東京の伝統人形芝居 一座「八王子車人形」の家元・西川古柳師匠を講師に招き、矢吹さんら参加者は基礎から学んだ。翌1995年には、講習会に参加した15人で「さっぽろ人形浄瑠璃あしり座」を結成。素人集団での稽古は試行錯誤の連続で、「結成後2、3年はゴールが見えず苦しかった」と振り返る。それでも止めなかったのは、人形の構造や表現を学ぶたびに新たな発見があったから。「難しいけれど面白い」という思いが、活動の原動力になっていった。

50年、100年先を見据えて
次の担い手を育てる

この伝統芸能を後世につなごうと、1999年に中高生向けの「ざ・にんぎょうじょうるりユースクラス」を開講。現在、21人の中高生が参加している。

「人形浄瑠璃をきちんと分かっていないと、子どもたちに教えられない。ユースクラスをきっかけに座員たちの意識が変わりました」

座員は38人になり、レパートリーも増えた。「二人三番叟」やオリジナル作「大黒屋光太夫ロシア漂流記」のほか、小樽出身の人形師・沢則行さんと人形劇「OKHOTSK―終わりの楽園―」で共演。ハンガリーやチェコ、韓国など海外公演も行った。東日本大震災後は、復興支援として福島県内で公演やワークショップを重ね、人形浄瑠璃の魅力を伝えている。

「あしり座がここまで続くとは思っていなかった。多くの人から期待されていると思うと、どう応えていくか。さらに人形浄瑠璃を学び、稽古に励まなければいけないと気が引き締まります」

2025年度には、北海道で唯一の人形浄瑠璃座として札幌文化奨励賞を受賞。古典からオリジナル作品まで広く上演し、人材育成にも尽くしてきたことが評価された。これからの目標は、太夫や三味線の担い手を育てながら、50年、100年先へ続く土台を築いていくことだという。

「やっと札幌の人たちに認めてもらえたのかな。そこからもう一つ先を目指したい。あしり座が札幌の文化財に指定されるくらいの存在になれば、本当にいいなと思います」

Memorable Words

あしり座がここまで続くとは思っていなかった。
さらに人形浄瑠璃を学び、稽古に励まなければいけないと気が引き締まります。

あしり座の公演に加え、やまびこ座・こぐま座のイベントなども目白押しです。それでも時間があれば、自分の人形劇団「野良犬Plus⊕」の新作を作りたい。あとは、明るく元気に生きていきたいですね。

  • あしり座の公演「人形浄瑠璃2026」の演目「鳴響安宅新関 勧進帳の段」で弁慶を遣う矢吹さん。 あしり座の公演「人形浄瑠璃2026」の演目「鳴響安宅新関 勧進帳の段」で弁慶を遣う矢吹さん。
  • 講師を務める人形劇講座(やまびこ座)の制作風景講師を務める人形劇講座(やまびこ座)の制作風景

今年7月には札幌と海外の子どもたちによる野外人形劇の総合プロデューサーを務めた。
今年7月には札幌と海外の子どもたちによる野外人形劇の総合プロデューサーを務めた。

※2026年11月3日現在の記事です。詳細はお問い合わせください。

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