トップバトン

トップバトン VOL.5

住友林業株式会社 代表取締役社長 市川晃 氏

ISSUED | 2019.06

人々の生活に役立つ木の可能性や温かみを真心をもって伝えたい

リレー形式で経営者をつなぐ「TOP BATON」。エステーの代表執行役社長 鈴木貴子氏からバトンを受け取ったのは住友林業の代表取締役社長 市川晃氏。敬愛する住友の事業精神と「至誠一貫」という座右の銘を胸に歩んできたこれまでのビジネス人生を語ってもらった。

PROFILE

市川 晃

1954年兵庫県生まれ。78年関西学院大学経済学部卒業。同年住友林業株式会社入社。アムステルダム駐在、シアトル出張所長などを経て営業本部国際事業部長、経営企画部長、2008年取締役常務執行役員に就任。2010年から現職。2017年から経済同友会副代表幹事、翌18年7月から首相諮問機関である第32次地方制度調査会会長も務める。趣味は星空観賞とご夫人との散歩。

 

創業以来、代々受け継ぐ『住友の事業精神』

 創業から長い年月を経て今なお元気な企業には、時代の流れに左右されない確固とした理念が受け継がれているものだ。そんな歴史ある企業のトップに課せられるもっとも重要なミッションは、その理念を守り、次の世代に継承していくことではないだろうか。今回住友林業株式会社の代表取締役社長である市川晃氏にお話をうかがい、それこそが、企業が長く成長を続けるためのヒントなのではないか、そんな風に感じている。

「住友グループには、社員全員の財産といえる『住友の事業精神』があるのですが、経営に携るようになって、その深みをより感じるようになりました。住友の家祖である住友政友が記した商いの心得『文殊院旨意書(もんじゅいんしいがき)』の前文に、『何事も粗略にせず、心を込めて丁寧慎重に取り扱うように』と説かれています。また、『自利利他公私一如(じりりたこうしいちにょ)』といった教えもあり、これは自身を利するとともに国家を利し、かつ社会を利するものでなければならないとする考え方を表すものです。この教えは私を含め歴代の社長が大切にしてきた理念であり、次世代の社長はもちろん、社員全員にも受け継がれていくべきものです。何か判断に迷ったときにこの理念・精神に立ち返ることで、正しいと思える判断を下すことができますし、企業としての軸といいますか、姿勢を貫くことができます。私たち企業が成長していく上で道しるべとなる、とてもありがたい存在だと思っています」

「W350計画」の木造超高層建築1棟の木材使用量は同社木造住宅(構造材)の約8,000棟分。木造建築の可能性を大きく広げる計画だ。

人や社会を利するための試み

 住友林業は『住友の事業精神』を実直に守る一方で、事業内容は柔軟に変化させてきた。

「当社の歴史は住友家が別子銅山を開坑した1691年に遡ります。銅山備林の経営を担い、当初は社有林の木を販売していましたが、やがて時代のニーズに応じて木材や建材の専門商社となり、1975年に住宅事業へ進出しました。現在では木造注文住宅でトップクラスの仲間入りをしています。2000年代に入ってからは海外でも住宅事業を展開し、当社の技術と各国のパートナー企業との技術をハイブリッドさせ、それぞれの地域の気候や生活様式に適した木造住宅を提供しています。また日本の木造建築技術を守り継承していくため、古民家再生事業にも力を入れています。『不易流行』という言葉があるように、時代に応じて企業は変化し発展を続け、社会に貢献しなければいけません。一方、創業以来の『住友の事業精神』をベースに、全ての社員が住友林業の社員としての誇りとプライドを持ち、互いを補い合いながら成長していくことが大切です」

都市を森に変える「W350計画」

 2041年、創業350周年を迎えるこの年を目標に、住友林業は「W350計画」を発表した。これは高さ350mの木造超高層建築を木鋼ハイブリッド構造で建設できる技術を持つという研究技術開発構想だ。この計画では、人と自然が共生できる「環境木化都市」の実現を目指す。これが可能となれば、都市の風景は大きく変わるだろう。

「日本は戦後の住宅需要で多くの木が伐採され、一時、山から木がなくなりましたが、その後、国を挙げての造林・植林で、現在では伐期を迎えた木が多く存在します。しかし、今度は木を使う場所がありません。大きな建築物には鉄筋コンクリートが使われるようになり、木を使う場所が減り、その結果、木造建築技術の進歩が遅れてしまいました。

 ところで、現存する世界最古の木造建築物をご存知ですか。それは奈良県の法隆寺で、築1300年以上経った今も現存します。本来木造建築は地震に強く、温かみがあって人にも優しいのです。時に、木造建築は『寒い』と言われますが、それは隙間風が吹き込むなど建て方の問題であって、木という素材の問題ではありません。むしろ気密性を高め断熱すればとても暖かいのです。「W350計画」で木造の超高層建築物をつくることによって、素材としての木への誤解を解き、その可能性を証明したいと思っています。強度や耐震性の試算も行っています。現在の技術水準ではRC工法と比べると倍のコストがかかるなどクリアすべき課題も抽出できました。オープンイノベーションで多くの人の知識や技術をお借りし、さらに進化させていく予定です。木は成長する際に二酸化炭素を吸収してくれますから、環境問題の一助となるとも考えています」

海外赴任で実感した先人への感謝

 2010年の社長就任時、市川氏は56歳。前社長からの社長就任の打診は、「まったくの想定外」だったそうだ。いまだに社長登用の意図や理由は「わからない」と笑う。

「求められていることのプラスアルファの結果を残そうとは常々思っていましたが、社長とは思ってもみませんでした。風が吹くように、たまたま今の時代の流れの中で評価して頂いたものだと思っています。

 20年ほど前、ヨーロッパに事務所を開くため一人でアムステルダムに赴任したのですが、その際に実感したのは、日本人であり、住友グループの社員であることのありがたさでした。事務所を借りたり、銀行口座を開いたりを全て一から私が手配したのですが、当初、私個人には一切の信用も信頼もない。日本人であること、住友の人間であること、すなわち先人たちの信用力が自身の大きな支えとなりました。おかげで、とてもスムーズに準備が進み、ビジネスを行うことができました。日本は海外との交流なしには生きていけませんから、次に続くビジネスマンたちのために、海外に赴任する社員には、『いい資産を残してきてほしい』と伝えています」

 先人への感謝を胸に、住友林業をますます発展させていく市川氏。その姿は豊かな自然が息づく山のように、泰然自若として清らかだ。

OUR WORD

至誠一貫
――市川 晃

「至誠にして動かざる者未だ之れ有らざるなり」。真心で動かない人はいないという孟子の言葉です。自分の知識や経験だけではどうにもならないことも多いのですが、真正面から真心をもって向かっていくことはできる。目一杯のことをしているかと自分自身に問いかけ、鼓舞するときに思い出しています。

 

住友林業株式会社

1691年(元禄4年)創業。住友家の別子銅山開坑により銅山備林経営を開始したのが起源。山林環境・住宅・リフォーム・不動産・海外事業・エネルギー事業など、再生可能で人と地球にやさしい木に関する川上から川下までの事業を網羅。「木と生きる幸福。」をブランドメッセージとして、木の可能性を追求し、持続的に成長する企業グループを目指している。



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